【第一章 秘石の秘密を握る少女、メメル】

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 ★  ポンヌ島の唯一の出入り口である『風の港』は多くの観客で賑わっていた。行われる試合は飛翔競技である『スカイ・グライダー選手権』予選会の決勝戦。  若葉が茂る季節になると、ポンヌの周辺には安定した上昇気流が巻き起こる。だからスカイ・グライダー選手権は毎年、ポンヌ島で行われている。ポンヌは名産品のない辺境の島だが、この一大イベントの時期だけは賑わいを見せ、その観光収入がポンヌ島の経済を支えている。それぞれの浮遊島はいずれも生き残る手段を独自に見いだしていた。  グライダーを背中に取り付けた選手が16人、島の絶壁に立ち並んでいる。翼の形に規定はない。メメルは海鳥の羽にも似た淡青色の翼を携えていたが、これはアージェが苦労して作り上げたものだ。  眼下にはいくつもの救護艇が浮かんでいる。事故で墜落する選手も少なくないためだ。だが、万一多くの選手が同時に墜落すれば救援が間に合わず命に関わることとなる。選手は危険なことを重々承知しているが、それでもこの戦いに勝利して得られるものの大きさの前には危機感など霞んでしまう。  なぜなら本戦に優勝すれば、アストラル中央都市の特別永住権が与えられるのだ。特別永住者は手厚い生活保障を受けられるだけでなく、専用の飛行艇が贈呈され、アストラル全土へのアクセス権が付与される。  メメルの夢は、ギムレット発掘隊となり世界を飛び回ることだった。そしてもしも未知のギムレッド鉱石を探し当てることができたのなら、莫大な謝礼の供与と高い社会的地位が約束される。そうなれば孤児院の子供たちにも希望にかなう将来を約束してあげられるのだ。  ポンヌ音楽隊による演奏が始まり、予選会が幕を開ける。セリアは声を張り上げて応援を送る。 「メメルちゃーん、がんばってぇー!」  気づいたメメルが振り向いてにこやかに手を振る。  メメルは出場選手のうちで最年少なので、ひときわ小柄で、大きな翼は不釣り合いに見える。だが、この大会に全身全霊を賭けているだけに、気合は誰にも負けていない。
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