【第一章 秘石の秘密を握る少女、メメル】

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 パァーン!!  号砲が鳴り響き16機のグライダーが空に飛び立った。歓声がいっそう賑やかになる。  グライダーは動力源を持たないが、風を捉えて飛ぶことができる。スカイ・グライダー競技はグライダーを操作し、空中のエアゲートをくぐり抜けてコースを周回しゴールの順位を競う。島の上空から底層を5周回し、島上のゴールエリアにいち早く着地したものが勝利者となる。  風の使い方はグライダーの操縦者によりまちまちで、だからライン取りには個性が出る。メメルはより高度をあげ、重力を使って一気に加速するスタイルだ。  けれどメメルと同じ飛行スタイルで宙を舞うグライダーが一機。  ロゴマークは富裕層が居住する、隣島パルメザソのものだ。メメルに追いつくほど高度を上げられるのは、グライダーの翼に最新の軽量素材を使っているからだろう。風を受けた瞬間の浮力が他とは明らかに異なっていた。  風を捉えて十分な高度を得たら、いよいよ上空からの急降下が始まる。グライダーは速度を上げ、観客の目前を飛龍のごとき速さで通り過ぎてゆく。アージェとセリアは固唾を飲んで勝負の行方を見守る。  選手の姿が島の底面に隠れると、崖から覗き込んでいた観客も身を引いて待つ。この視界に映らない時間がどれだけ不安を煽るのか、アージェはよく知っている。島の底面で舞う不安定な風は、選手をいとも簡単に試合から脱落させてしまうのだ。島への激突、という不幸な形で。  選手が再浮上して姿を現すとふたたび大きな歓声が上がる。最初にパルメザソの選手、続いてメメル。けれど大きく引き離されていた。風に煽られたのかと心配したが、メメルは持ち前の身軽さを生かして距離を詰めてゆく。    だが、アージェはメメルのグライダーが通り過ぎた瞬間、気づいたことがあった。すぐさま立ち上がりセリアにひとことを残す。 「悪い、ちょっと用を足してくらぁ」 「ええっ、こんな時に!?」 「しょうがないだろ、すぐに戻るからさ」  むっとするセリアの表情に気づかぬふりをし、足早に観客席を立ち去る。
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