【第一章 秘石の秘密を握る少女、メメル】

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 ★ 「アージェ、遅いじゃないの、最後の一周よ!」 「ごめんごめん、混雑していてさ。でもちゃんと見ていたよ」  十六機のグライダーのうち、四機の姿はなくなっていた。崖の下を覗くと救護隊が海上に着水している。  やはり数機、風に巻き込まれ衝突したものが出たか。だがは未然に防げたに違いない。  突然、大きな歓声が上がる。島の底面から姿を現す二機のグライダー。ひとつはメメルだ。  メメルはパルメザソの選手とデッドヒートを繰り広げている。翼同士が触れ合いバランスが崩れると観客から悲鳴が上がる。相手は強引にメメルの進路を塞ぎにかかり、避けたメメルは後塵を拝してしまった。 「くっ、挽回できるか!?」 「きっと大丈夫、メメルちゃんの風の捉え方はわたしよりずっとすごいんだから!」  セリアは由緒ある貴族の家柄で、風魔法使いの家系の末裔でもある。生まれつき風の魔法の才覚を有する生粋(ギフテッド)のひとり。メメルにスカイ・グライダーを教え込んだ師匠でもある。  けれど戦争さえ起きなければ、セリアはポンヌ孤児院ではなく、裕福な一家のお嬢様として今を生きていたはずだった。  最高地点にあるトップ・エアゲートをくぐり抜けて島上にあるゴールポイントを目指す。メメルは翼を折りたたんだ。抵抗を最小限にし、きりもみ回転で風の隙間を抜けて速度を上げてゆく。ぐんぐんと島に近づいてくる。半身、相手の先に出た。アージェもセリアも立ち上がって声援を送る。 「「いっけえェェェ!!!」」  島上にたどり着く直前、メメルは小柄な身体を力の限り翻す。空中で数回転し、急激に速度を落とした。命懸けの急降下と減速で突風が起こり砂埃が舞う。アージェもセリアもたまらず目を閉じた。  ほんの数秒、静寂があたりを支配していた。  それからゆっくりと目を開くと、ゴールポイントには両腕を高々と空に掲げるメメルの姿があった。 「メメル、いっちば~んゲット!!」  あどけない笑顔を浮かべた少女に、観客からの惜しみない拍手喝采が送られていた。
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