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自慢では無いが……大学を卒業して13年、結婚もせずに仕事は真面目にやってきた。
それなりの大きなプロジェクトに携わったこともある。
上の人間からの評価だって決して悪くない。
だから、女で30代半ばにして主任という肩書きも貰った。
それは勿論給料にも反映され、郊外だが、広い家に住みリビングのソファーだって決して小さくない…………ハズだ…………。
「……もう少しそっち行けよ」
「押さないででよ…葵大丈夫か?」
「先輩は俺の膝の上にいましょうね」
「──おいっ……やめろって……」
「──え?そういうの有りなの?じゃぁ零もおいで」
「───えっ!?……ちょっと…待って……」
───なんだこれ…………
私は思わずこのバカップルどもから視線をずらした。
イヤ……自分が作り出した子達(らしい)なんですけどね……。
広いハズのリビングがわちゃわちゃしてるわ……
私合わせて11人もいるもんだから、当然ソファーになんか座りきる訳もなく、床にも座ってるわ……
挙句に集まれっつってんのに、少し離れたダイニングテーブルで相変わらずコーヒー飲んでるヤツもいる…………。
「……涼太さん、佳代さんが集まれって……」
───マイペース………………
「私の声が聞こえてればいいから……」
それでもコーヒーを飲み続ける相方を、どうにかリビングに連れていこうと頑張ってる姿か不憫で、私は大きな溜息と共にそう告げた。
しかし…………こう集まられると圧巻……と言うか……圧がすごい…………。
「…………それで……一体どういうことなの……?あなた達は本当に…………」
そこで言葉を詰まらせた。
確かに……名前も、思い描いていた個々の特徴も、話の中の彼等によく似ている……。
でも、小説の中から現実に現れる……なんてあまりにも『非現実的』過ぎて、言葉にすることすら躊躇われた。
「……あの……俺たちにも解らないんです。朝起きて……寝室出たらここにいて……。起きた時は間違いなく自分の部屋のベッドだったのに……ね?直斗……」
「あ……俺たちも……俺たちは、葵と2人で学校行こうとして玄関出たら……ここに……」
───一体どういうこと…………
その後もみんな口々に同じような話を繰り返した。
朝起きたら……
家を出ようとしたら……
逆に家に入ろうとしたら……
とにかくどこかしらの『ドア』がポイントになっているらしかった。
そしてここに来た時間もまちまちだった。
「───でもっ……じゃぁどうしてここが私の家だって……今朝初めて会ったのに……私だって……なんで分かったの!?」
だって私がリビングに来た時、みんな「佳代さんおはよう」そう言った。
「……そんなん分かるよ。だって、佳代さん……俺らのお母さんじゃん」
結局膝の上に大人しく収まっている、女の子と間違えそうな程可愛らしい顔が少し困った様に告げた。
「───は!?」
お母さんて…………私まだ結構もしてないのに……
しかも………こんなでかい子供って…………
「だって……俺ら作り出したの佳代さんじゃん」
確かに……この子達が言ってることが本当だとすれば…………作り出したのは私だ……。
それに、今話しているこの可愛らしい顔の子が“光流”だと、言われなくても私も解ってる。
「佳代さん……俺たちも出来るだけ早く、自分達の世界に帰れるように考えてみます。……だからそれまで置いてもらえませんか?」
色素の薄い大きな優しい瞳が私を見つめる……。
「……零……?」
「はい。俺……紡木零です」
そう答えた優しい笑顔を思わず見つめる。
ああ……思った通りの子だ……。
素直で真っ直ぐで……。
そう思ったら心臓がドキドキ高鳴った。
本当に……私が作り出した子達なんだ……。
「おいッ!」
しかしそんな感動的な空気などお構い無しに隣の“如何にもガラの悪そうな子”が零を抱き寄せ私から引き離した……。
「いくら佳代さんでも、零のこと変な目で見んなよッ!」
「───はい……?」
私……変な目でなんて一切見てませんけど……。
さっき君たち『お母さん』て言ったよね?
お母さん……ちょっと感動してただけだよね?
しかしその言葉にリビングが騒つき出した。
言い方は悪いが『攻め側の子達』が……こぞって自分の相方を抱き寄せ、まるで野生動物が自分の子供を守るように私に冷たい視線を向ける……。
イヤイヤイヤ…………。
私一応女ですけどね…………。
「…………君たち相手に変な気なんて起こさないし……何もしませんから……」
娘の成長を噛み締めて見つめてしまったばかりに『お父さん見ないでよ!』って冷たい視線を向けられた父親みたいな気分になり、私は今までで最高に大きな溜息を、その言葉と共に吐き出した……。
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