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しつこい様だが、うちのリビングは……と言うよりこの家自体決して狭くない。
元々ファミリー向けで作られた借家なだけに一人暮らしにしてはバカみたいに広い。
そう……一人暮らしにしては…………。
しかし……いくらファミリー向け……と言っても恐らく11人での生活なんて想定外もいいところだろう。
「……俺たちどこで寝るの?」
それまで、ここに来た状況や帰れる方法について話し合っていた私達(と言っても私とごく一部だけ)は葵の言葉に愕然とした。
確かに…………。
時間はとっくに日付をまたいでいる。
「……布団なら……何組かあるけど……」
あとは……私の寝室のベッドだけ……。
「…………部屋はいくつある?」
それまで私の事など気にもとめずコーヒーを飲み、ニュース番組を見ていた涼太が口を開いた。
「……部屋は……5部屋あるけど……その内の一部屋は私の寝室だし、もう一部屋は仕事部屋で……」
「じゃぁ残りの3部屋のうちひとつを俺と冬音夜で使う」
「───え?……」
「───涼太さんッ!?」
焦る相方にも、呆気にとられる私にも動じない……。
さっきからマイペースだと思ってはいたが、ここまでとは思わずバカみたいに口をあんぐりと開け、惚けている私を冷たい瞳が見つめる……。
「それくらいの特権は貰いたいね。……何しろ俺たちの時間は止められたままなんだから」
そう言葉にすると冷たい瞳のまま優しく笑った……。
───こいつ……絶対性格悪い…………
確かに…………この2人の続きが書けないでいて……
だからって何もそんな言い方しなくても……そう思いながらも言い返せない……。
「はぁ!?じゃあ俺と零も1部屋使う!俺たちだって時間止まってた時あったし、それに…佳代さんとの付き合いも長いし」
「ちょっと……そんな勝手に………みんなにちゃんと聞かないと……」
止める私なんか無視して、当然!……と言いたげな直斗に「でも……」と俊輔がおずおずと異議を唱えた。
「佳代さんと一番付き合いが長いなら、俺と葵だけど……」
俊輔の言葉に面白くなさそうに
「……うるせぇな、チビ」
言った言葉が子供じみている……。
「──チビって言わないでください!」
「チビだからチビっつったんだろ」
「───またッ………………」
お互いに睨み合ってはいるが、小学生並の喧嘩に苦笑いしてしまう。
しかしそこで俊輔が直斗から目を逸らすと
「…………葵にフラれたクセに……」
ボソッと言った……。
「はぁ!?フラれてねぇし!」
「……葵にフラれて、莉央さんて人と寄り戻したクセに……」
「───おまっ!何言ってんだよっ!ふざけてんなよ!!」
過去の事を持ち出す……なら良くあるが、未来の事を持ち出すとは……なかなか……。
しかも、現在の恋人の前でこれは辛い……。
真っ赤になって怒っている直斗が俊輔の襟首を掴んだ。
「俊っ!言い過ぎだよ!──藤井さんもっ!手ぇ離して!」
そして慌てて止める葵…………
なのに私は
───なんか……すごいことになってる………
葵に手を出したのは大人になった直斗で……
ここにいるのは高校生の直斗なのに、やっぱり俊輔とは相性悪いんだぁ……面白いなぁ……
なんて……書き手として冷静に見てしまっていた。
「葵はどいてろ」
──あ……やっぱり……葵にはちょっと優しい……
「葵に触らないでくださいっ」
──あ……俊輔怒った……やっぱ嫌なんだ……
「おめぇが余計なこと言うからだろうがッ」
「最初に言ったのは藤井さんです!」
今にも殴り合いになるのではないだろうか……という一触即発の空気の中、呑気に観察している私の服の裾を誰かが引っ張った。
「……ねぇ……止めなくていいの?……俺止める?」
ソファーに大人しく座っていたハーフアップの高校生……。
「あ……俺、康介……」
照れたような自己紹介に思わず和む。
「分かってるよ」
笑顔で返し、まだ言い合っている2人へ向き直す。
「あなた達……いい加減に……」
そこまで言いかけて私は言葉を止めた。
隣にいた零が黙ったまま立ち上がり俊輔の襟首を掴んだままの直斗の手を握ったのだ。
「直斗……やめて?」
その一言で静寂が訪れる。
零とはなんの関係も無い俊輔までもが零に僅かだが……怯んでいるように見える。
そして微かに赤くなってる頬は、気のせいでは無いはず……。
「…………だってこいつが……」
「直斗?」
怒るのでも無く責めるのでも無く、小首を傾げ見つめる零に、直斗は大きな溜息と共に俊輔から手を離した。
「…………分かったよ……」
───さすが…………
自分で作り出した子ながら感心してしまう。
勿論、他の子より年齢がいってるのもあるが、度胸があると言うか、経験豊富な分……凄い。
しかし……明らかに一番ビビっているのが何故か葵で……ちょっと笑える。
「とりあえず、今日のところはくじ引きで部屋を決めよう?仕事部屋も数に入れて……」
そうすれば、4部屋……まぁ残りの1組は申し訳無いが……リビングで寝てもらって……。
そう考えていた私へ
「…………そのくじ引きって……勿論、佳代さんもするんですよね?まさか……自分だけ悠々自適に自分のベッドで寝よう……なんて考えてないですよね?……『お母さん』なんだから」
相方を膝から一切下ろさず、誰にも触れさせないようにガードしている……これまた涼太とは少し違う冷たい笑顔……。
「まさか……“自分の可愛い子供だけ”に、くじ引きさせようなんて…………思う訳無いですよね」
忍の言葉に私は顔を引き攣らせた……。
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