10、甘い夜は嵐の前の予兆でした

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 イレーナは手を伸ばしてヴァルクの背中を撫でる。  実は心の底から安堵していた。  しばらく会えなかったことで、もしかしてもう自分は(夜伽相手として)不要になってしまったのかと不安だったのだ。    しかしそれは杞憂だった。  ヴァルクはこうしてイレーナをまだ側妃として必要としてくれている。 「何をにやにやしているんだ?」 「ヴァルクさまが私のところへ来てくださったから嬉しいのです」 「そ、そうか……それはよかった」  ヴァルクはやけに顔を赤くして、いつもよりたどたどしい口調だ。  イレーナはじわっと胸が熱くなった。 (ああ、この犬みたいに可愛らしい反応、最高に愛おしいわ!)  イレーナはぎゅっと彼に抱きついた。  たとえ、そこに愛がなくても。  ただの欲求を晴らす相手であっても。  必要としてくれるだけで十分だ。  それなのに、イレーナの心の隅には隙間風のようなものが吹いていた。  その隙間はどうしても埋められなくて、自分でもどうにもできない。  だから、笑って誤魔化すしかないのである。 (いやだわ。私、ずいぶん深入りしてしまったようね)  認めざるを得なかった。  完全に好きになってしまっている。  けれど、個人的な感情を露わにして彼に嫌われたくなかったから、イレーナは決して言葉にしなかった。
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