11、アンジェ、動く

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 アンジェは侯爵の遊び相手とのあいだに出来た子だった。  侯爵には息子しかいなかったので、アンジェを引き取って令嬢教育を受けさせたのだ。  将来、皇帝の妻にして、己の野望を果たすために。  アンジェはもちろんこのことを理解している。  ここで父の役に立たなければ生きている意味などない。 「忘れてなどおりません。機会をうかがっているのでございます」  アンジェは感情を表に出さず、平静を保ちながら淡々と答えた。  侯爵はアンジェを睨みながら舌打ちする。 「そのセリフもいい加減に聞き飽きたぞ。お前がのろのろしているからこちらから手を打ってやることにした」  彼はそう言って、壁際に控えていた黒のローブ姿の男に目で合図した。  すると男は懐から小さな透明の容器を取り出し、侯爵に手渡した。  その中には光沢のある赤紫の色の液体が入っている。  侯爵はそれを手に取り、にやりと笑うとアンジェに差し出した。 「やるべきことはわかっているな? アンジェ」  アンジェは表情を曇らせて赤紫の容器を見つめた。
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