5、皇帝陛下が激甘すぎて寝られません

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「陛下にお会いするのに素顔というわけには……」  毎夜、念入りに湯浴みをして綺麗にしてから化粧を施してもらう。  それは皇帝が訪れるからである。  そうでなければ、イレーナは化粧どころか寝間着(ナイトドレス)も質素なガウンだ。 「俺が素顔でいいと言っているのだ。そうすればいい」  ヴァルクはとんっとイレーナの肩を押す。  イレーナはふわっとベッドに仰向けに倒れた。  ヴァルクはイレーナの髪を撫でながらキスをする。  長い夜の始まりの合図。  いつもならこの心地よさに酔いしれるのだが、なぜか急に頭の中にアンジェの顔が浮かび、イレーナはとっさに拒絶した。  ヴァルクの肩を両手で押して離れる。 「どうした?」 「申しわけございません。少々、体調が……」  言ったあと後悔した。  体調が優れないなど皇帝の前では言いわけにもならない。  どんな状態であろうとも、皇帝のおこないを拒絶するなどあり得ない。  イレーナはドキドキしながらヴァルクの顔を見つめた。  すると――。 「そうか。具合が悪いなら仕方がないな」  意外にも彼はすんなり離れてくれたのだった。

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