森にくまさん

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 坂を上っていくと、待ち合わせ地点が見えてきた。もっとも、待ち合わせ相手の姿が見えたから、そこがその地点だと言うことがわかったのだから逆。  本日、睡眠時間不足によりコンタクトレンズの調子は絶不調。にもかかわらず、かなりの遠くから識別できた表情が、完全に怒髪天といった感じなものだから、足の動きを止めたくなってしまった。 怒り過ぎ。いまどき怒髪天な奴がいるかよ……。 「遅い、遅すぎるっ。なんっで所要時間まで送ってるのに遅刻できるのかわかんないけど説明とか始めたりしなくていい。絶対頭にくること言うから」 「すべての責任はこの地図に押し付けるといーんじゃないか? どんな町なんだね、ここは」 「すぐそやって人のせいにするけど地図読むの下手だーってこともあるよね。地理とかダメでしょ、読めないの、ちゃんと。苦手でしょ、成績悪いでしょ?」  ……。 「おまえが書いたな」 「さぁって、行こうか、汐崎君」 「おまえにしか書けないよな。あんなん」 「早くしないと遅刻だからね。それは印象悪いから良くないからね」  すたすたすたとえらい勢いで道を踏みつけて進んでいく後ろ姿に、超のつく方の力も使って、石ころをぶつけてやろうかと、戯れにしては具体的にイメージして考えてしまった。  こっちは休日を潰されてご機嫌が悪いとゆーのに、そっちは全然いつもの調子。少しは少しだけでもほんの少しでも、相手の状態に合わせた態度を選んだりなんてこと、期待するだけさらに損とわかってはいる、事実としては。 怒りが伝わらない相手に対して怒り続けることほど、激しく体力を消耗することってない。
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