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恵子の手から奪い取ったメモには、几帳面な男の字で正しそうな地図が記されていて意外だった。てっきりオレに寄越したのと同じ様に、ちまちました字がふよふよと並んでいると思っていたからだ。こんなものがあるなら、これをオレにも回せって思うだろう、ふつう。
駅。大きな道。そして小さな道。お屋敷町だから、目印があまりない。
だけどこういう町だからこそ、その分番地はわかりやすいはず。
今のところは間違ってはいないだろう。それを確かめ、道順を頭に焼き付けた上、隣から突き出されて暴れている手に突っ返そうとしたとき、依頼人と思われし人物の名前が目に留まった。これは。
「『進藤』?」
「ん、そう」
「へぇ、こんな所に住んでいるはずだな」
「知ってるの? しおやん。有名な人? どうして?」
「日本人のジョーシキ」
「じょおしき」
ふぅん、と納得したようなつぶやきを聞いたけれど、どーせ何もわかっていないに決まっていた。恵子相手に常識を求めたところで、こっちが情けなくなるだけだ。
世話になったこともあるそもそも美人の母上殿、香波さんを責めたいわけではないけれど、やっぱりどこか恵子については手薄なところを疑えない。
二人目の子育てで忙しかったんだろうか。たしか、弟がそんな年。
姉を持ったことはないにしても言えることはある。やだやだ、こんな姉。
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