森にくまさん

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 恵子にはこの驚きで当分静かにしていただいて、その間にオレはましなことを考えることにしよう。  仕事に来るの嫌さに資料を投げ出したままここまで来てしまったが、どうやら通常任務とは一味違うらしい。  待ち合わせ場所というデータ一つからでも推測はできただろうけど、それをしなかったのも、仕事嫌過ぎということで。やれやれ、それにしても怠け過ぎたかもしんない。依頼人の名前っくらい見りゃ良かった。  なんと言っても『進藤』ときた。  極めて穏やかに事業は孫息子に引き継がれ、まるで何事も起こっていないかのように、業績に変化はない異常。  生涯現役であった老社長が、円卓の騎士陣の育成に力を注いだ結果だというのが定説なのだが、オレは雲の上の夢を見ている。つまり。  英才教育の天才だ。  お飾りと言われている良水が、本来その地位そのままにすべてを操っているという可能性は、まさしく世評通りに有り得ないものなのだろうか?   こんな場所から見上げている市井一般の民として、捨てるに惜しい映画的スペクタクルな設定なのだが。  業界紙を見ては首を捻っていたこの疑問を、確かめられる機会が来るとは思ってなかった。  こんな指令だとわかっていたなら、も少し機嫌良く出て来れたとゆーのに、それはもったいないことをした。お楽しみな仕事内容なんてお目にかかるわけもないと、経験が強く語ってくれちゃっていたもんで。
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