綿菓子のように

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綿菓子のように

「……んっ……やめっ」  身じろいで立ち上がろうとするのに、その腕は強く押さえつけて、身動きできない。 「……響。まだ終わってない」  耳元で囁かれる掠れた独特の声が抵抗する力を弱めてしまう。  そのことを桃香(トウガ)先輩は知っている。耳元で囁くとその息が耳を擽って更に力は抜ける。ウエストに回された腕がギュッと抱き寄せるから、膝の間に座らせられている俺は腰の辺りに、それを感じて余計に煽られていた。 「も、いいから……」  声が震えてしまっている。 「よくない」  桃香先輩は開いている方の手で机に置かれた俺のノートを指差して、指先でトントンと叩いた。  俺の目の前には数学のノートが広げられ、教科書や参考書も置かれている。先日行われた期末前の実力テストの成績。他の教科は大丈夫だったが、数学だけが……。  それを桃香先輩が見逃すはずは無くて……。  期末試験までに基礎から叩き込んでやると意気込まれて……。
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