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「そりゃ、どんな服着ようがその人の勝手だと思うけど、見てる側が嫌ってこともあるよね。あたしは『うわっ』って思っちゃう。もちろん、その人に言ったりしないけど」
「え、でも……」
ルカは言い返そうとしたが、ビアンギの言っていることも間違っていないと思い、どう返していいのか分からなくなる。
「あたしの星にさ、オークって種族がいるの知ってる?」
「ええ、まあ」
この銀河にはエルフがいればオークもいる。地球上でどちらも伝承として伝わるのみだったが、他の星では実在していた。
「今時、大きな声で言えないけど、オークって存在自体が超キモいんだよね。不細工だし、野蛮だし、獰猛だし、鬼畜だし、くさいし。生理的に受け付けない」
エルフとオークは何千年、何万年と争ってきたらしい。長期間にわたって刻まれた憎しみは深く、大銀河時代に入って銀河統合政府の仲裁を受けるまで、血みどろの戦いを続けてきたのだ。
見た目は何の因果か、均整の取れた美しさを持つエルフとは真逆で、すべてがアンバランスになっているのがオークである。神のいたずらなのだろうか、両者を争わせてどちらが真理なのか決めさせているのではないかと、つまらない学説もあるくらいだ。
「あいつらがミニスカートはいてたら、その場で斬り捨てたくなるね」
「ビアンギさん、言い過ぎじゃ……」
エルフとオークの歴史はルカも知っていたが、実際にここまでのヘイトがあるとは思わなかった。
彼らの星は「ファンタジー星」と呼ばれている。これは地球人がつけた名だ。エルフとオーク、それぞれに星の名前を持っていたが、どちらの名前にすべきか決まらず、地球人が仲裁に入ったのである。
ビアンギは斬り捨てると言ったが、エルフは男女ともに剣技の訓練を受けている。身体能力はオークに劣るが、地球人よりも優れていることが多い。
「だってあいつら、ほぼ全裸なんだよ? 羞恥心がまったくなくて、いつも汚いもん露出して歩いてるの許せる? それが女装? 見てらんないよ」
ビアンギは心底嫌そうな顔をする。それだけオークとは仲が悪いのだ。いや、仲が悪いという言葉では済まないだろう。不倶戴天、生まれる以前から決して相容れない存在と言えよう。
地球人のルカからすると、なかなかそのニュアンスが伝わってこない。単純にヘイトをぶつけているようにしか思えないのだ。もっとオブラートに包めないものか。
「オークにも女性はいるんですよね?」
「いない。昔はいたらしいけど、公式の記録に残っている限りは男しかいない」
「え? じゃあ、どうやって子供産んでるんですか?」
「ちょっと待った! その話はまた今度ね!」
ルカは単純に疑問を言ったつもりだったが、顔を赤くした文乃が間に入って制止する。
それはエルフがオークを恨み、同じ知的生命体だと思いたくない大きな原因となっている。今では法律で禁止されているため減ってきているが、簡単に解決する問題ではなかった。
「……まあ、この銀河にはいろんな人がいるんだから、できる限り服も配慮してほしいってこと。最近はオークも服を着るようになったけど、女装してたらさすがにね」
と、ビアンギは譲歩する形で話を締めた。
「うん。ビアンギの言うように、見るほうの権利も最近では重要視されてるね。程度はあるけれど……。それと、この銀河には服を着ない人も5パーセントくらいいて、それを無理に着る側に合わせろとは言えないの。手足が2本ずつじゃない宇宙人、宇宙生物もいるし、性別が男女だけじゃない場合も多いしね」
「そっかあ……。思いもしませんでした……」
「地球育ちならしょうがないよ。地球にはほとんど地球人しかいないから。でも、この銀河には地球人しかいないと考えちゃうのが、地球人の悪いくせだから気を付けないと」
「はい……。見慣れない格好をしている宇宙人がいても、変に思ったり言ったりしちゃダメですよね……」
服と言えば、2本の足、2本の腕に合うものと思い込んでいる。しかし、宇宙人は腕が何十本も持っていることもあるし、全身が毛で覆われている種族もいる。
これまで地球人ベースで考えていたが、この銀河には数え切れない宇宙人や種族がいて、彼らにも配慮しないといけない。ルカは気が遠くなりそうだった。
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