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「ちょっとビアンギ! 失礼だよ!」
文乃がエルフを止めようとする。
「あたしはこの子のためを思って言ってるのよ。どう考えても家出でしょ? さっさと家に帰って、ご両親に謝ったほうが人生棒に振らないで済むわ」
「うー……。やっぱりそうなの?」
考えていることはビアンギと同じだったので、文乃はルカに直接問うことにした。
ルカは小さく頷いてから、決意を込めて言った。
「……そうですけど、覚悟はできています! 一人で生きていく決めて、家を出てきたんです! どうかここで働かせてください。他に行くところがないんです。お願いします!」
そこに誇張も、無理もない。すべて真実だった。等身大のルカだった。
「あなたはそれでいいかもしれないけど、迷惑かかるのはこっちよ? 親が捜索願いを出しているかもしれないし、雇ったあたしたちを誘拐で訴えてくれるかもしれない」
ビアンギに追及されて返事に窮してしまう。
まさに「触らぬ神に祟りなし」なのだ。可哀想だからといって助けたら、あとで大変なことになりかねない。
ルカが成人しているから本人の意志は尊重されるべきだが、両親が誘拐されて脅迫されたと訴えてきたら、確実に面倒なことになってしまう。罰せられることはなくても、取り調べを受けて、仕事を中断しなければいけなくなったり、変な噂が流れたりするかもしれない。
「まあまあ、落ち着いて落ち着いて」
文乃は穏やかに進めようと、二人の間に割って入る。
「ビアンギは反対ね。なら、ヴィオにも聞いてみようよ」
「え、ヴィオ……? まともなこと言わないと思うんだけど……」
ビアンギは心底嫌そうな顔をする。
「ヴィオにつないで」
文乃が時計型端末に発すると、AIが通話をつなぎ、コールが始まる。
しばらくして相手がコールに応じ、時計型端末の付近に立体スクリーンが現れる。
スクリーンに東欧系の小柄な女性が映る。
ブラウンのミドルヘアーにグレーの瞳。ビアンギはブロンドのロングでさらさらだったが、ヴィオと呼ばれた女性はお世辞にも、綺麗にトリートメントされているとは言えなかった。絵の具だろうか、顔もいろんな色がついて汚れている。
ざんばら髪になってしまっているルカは、長身美女であるビアンギに気後れしていたが、ヴィオのようにオシャレに気を遣わない女性がいることにほっとしてしまう。
「ヴィオ、ちょっといい」
「なに? 忙しいんだけど」
ヴィオと呼ばれた女性はけだるそうな声で応える。
「面接中なんだけど、この子、採用でいいよね?」
「オーケー」
立体スクリーンが消失する。ヴィオはその一言を言っただけで、通信を切断してしまったのだ。
「オッケーだって!」
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