プロローグ

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「あのねえ……。あの子にそんなこと相談してもしょうがないでしょ。それになにあの聞き方」 「まあまあ、ヴィオもれっきとした社員だし」 「それはそうだけど、私はみんなのために言ってるの。これで誰も得しないのよ」  ルカは文乃とビアンギのやりとりを眺めていることしかできなかった。  むしろ、トラブルを持ち込んでしまって申し訳ないと思ってしまう。ビアンギは意地悪で言っているのではなく、他の社員のため、そしてルカのためを思って発言しているからだ。 「うん、ビアンギの気持ちは嬉しいよ。でも、わたしはこの子の話を聞いたときから、採用って決めてたんだ」 「え……」 「ほら、困ってるじゃない? あ、今面接でって話じゃないよ? たぶんこの子は本当に家出をしてきたんだと思う。それって本当に困ってるってことでしょ? なら助けてあげなくっちゃ」 「ああ、いつものね。じっちゃんが言ってたっていう……」  ビアンギが呆れた顔で言う。 「うん。この船をじっちゃんからもらったとき、じっちゃんのように困ってる人を助けようと決めてたから」 「はあ……。『情けは人のためならず』だっけ? 文乃はほんと馬鹿なんだから」  ビアンギがため息を吐く。 「いいよ。この子を採用しよう。人を見た目で判断するのはアレだし、私たちもあんたに助けられた口だしね」 「オッケー! ありがと、ビアンギ。そう言ってくれると思ったよ」  文乃がビアンギの手を握りしめると、ビアンギは恥ずかしそうに頬を赤く染める。  そして今度は、ルカに手を差し出した。 「おめでとう。えっと……星浦ルカさん。君を採用します!」 「えっ、本当にいいんですかっ!?」  もはや絶望的という状況から、社長である文乃の采配によって一転してしまった。  どうしてかたくなであったビアンギが折れてくれなかったのか分からなかったが、ビアンギが文乃を信頼しているのは伝わってきた。 「嫌なら断ってくれてもいいけど」 「いえ! どこまでもついて行きます! えっと……社長!」 「社長はいいよ……恥ずかしい。文乃って呼んで。ここではみんな下の名前で呼ぶことになってるから」 「はい! 文乃さんよろしくお願いします!」 「呼び捨てでいいけど、まあいっか」 「よろしく、ルカ」  ビアンギがルカに握手を求めてくる。 「よろしくお願いします、ビアンギさん」  ルカをその手を取って答えた。 「今日という日のことが、回り回ってみんなに幸福になりますように! よーし、発進するよ! 各員、出航準備!」  文乃が号令をかける。  情けは人のためならず。人に情けをかけておけば、回り回って自分の利益になること。大銀河時代に入って忘れられたことわざである。
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