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「分かるよ。そういう逸話があったんだよね。その通りに書いてくれたんだよね。……でも、それをそのまま記事にしていいかは別の話なの」
「はい……」
「これは銀河ネットで、全銀河に公開され、いろんな星の人が読むことになるの。これを読んだときどう思うか想像してみて。地球人って男女差別するんだなってことにならない?」
「そ、そうですね……」
男女差別。地球でも大昔から永遠のテーマとして問題になっていた。基本的には男性が女性を侮るというのがよろしくなく、女性も男性と同じように扱うべきだという。
今ではだいぶ改善されたが、地球人が宇宙に進出した際、他の星の人と交流する上でトラブルが生じるようになっていた。
「ポリティカル・コレクトネス。社会的正しさとか、社会的妥当性って言うんだけど、通称ポリコレね。こういう記事読んだら不愉快になる人はいるし、地球人が悪く思われるのは嫌だって、クライアントは思うものなの。わたしたちはプロのライターだから、そういうのにはきちんと配慮しなきゃいけないんだ」
文乃の言う通りだった。
知らなかったとはいえ、配慮がなかったと思わざるを得ない。これが素人とプロの意識の差なんだと、ルカは思い知ることになる。
文乃の趣味で書き直しを命じているわけではなく、トラブルを避けたいクライアントの要望に応えるためだったことも理解できた。
「男が女の服を着るのが恥ずかしいと思う意識から、そんな挑発が成立するわけだけど、もう古いよね。男が女の服を着ちゃいけないってことはないでしょ? そんな法律はないし、どんな服を着ようがその人の勝手」
「はい、そうだと思います」
「大昔、プロスポーツであったらしいんだけど、入団したばかりの新人の服を隠して、代わりに女の服を入れるっていじめがあったんだ。いじめというより、変な歓迎の形なのかな。でも、それは男女差別ってことになって禁止になったんだ」
「なるほど……。それでからかっちゃいけないですね」
かつて女装するのが恥ずかしいという文化があったが、もはや昔の話である。自由主義の流行で、人が何を着ようと自由で、それに文句はつけてはいけないことになっていった。
また、その流れでユニセックスの服はある程度普及したが、やはり体型の違いから、男性用、女性用と分かれてデザインされていることが多い。また、好みの問題もあって、なかなか男女で同じ服を着ることにはならなかった。男女を一緒くたにはできないのである。
「ようするに、男でも女でも、好きな服を着ればオーケーってことだよ。それで他人が馬鹿にしちゃいけない」
「その通りですね! 勉強になりました!」
「それはよかった。人に自分の書いた文章に文句つけられると、イラっとするかもしれないけど、なんとか堪えてね。いい文章を書くのが仕事だから」
「あ、はい……」
ルカは恥ずかしくなる。
(まだまだ子供だ……。精進しなきゃ)
自分のやりたいことをさせてもらえず、ただわめくだけの子供のようだったと反省する。
「じゃあ、記事直してね」
「でもさー、おっさんがミニスカートはいてたらキモくない?」
一件落着と思ったとき、横から口を挟んだのはエルフのビアンギだった。
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