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勇者一行を追い出され、斡旋して貰った騎士団所属治療師の隊から追い出され、そうになった僕は現在、助けた騎士の隣で近所の子供たちに両手を引っ張られていた。 「お兄ちゃん、こっちこっち!」 「おじいちゃんが大変なの!」 「焦る気持ちはわかるけど、下り坂を走ると危ないよ」 そう声を掛けると子供たちは素直に返事をし、民家の前で足を止める。どうやらちょうど着いたから走るのをやめたみたいだ。 急かされるように中へと押されると、ベッドの上でぐったりとした老人を見つけすぐに傍に駆け寄って膝を折ってから手を握る。 「お兄ちゃん、おじいちゃん大丈夫?」 「具合悪いの?」 「……風邪みたいだね」 少し光が弱った体内の魔力の様子に「風邪なだけ?」と子供たちが不思議そうに首を傾げるのを、ずっと後ろで黙ってついてきていた騎士──もといアレックスさんが「君たちにとってはただの風邪だが」と声を上げた。 「年を取るとそんなただの風邪でも命の危機になることがある」 「そうなの?」 「そうなんだ。でも早く教えてくれたお陰で、おじいさんはもう大丈夫」 魔力を補填しておいたので、抗体となって徐々に風邪を治してくれる。 本当はすぐに治してもいいけど薬の作用に似せた魔法を掛けてみたので、ゆっくり全快して貰えそう。 子供たちと別れるとすぐに、スルリと手を握られ驚いて顔を向ければ隣のアレックスさんはゆるく笑った。 「ようやくイズルの手が空いて良かった」 「え、そ……う、やって握ったら1つまた埋まっちゃいましたね」 「ああ、ずっと俺がこうして握ってれば奪われないで済むだろうか」 「外ではやめてください、隊長たち」 急に後ろから声を掛けられて振り返れば、呆れた様子の赤毛の青年が腕を組んで僕たちを見つめている。 彼はアレックス隊の副隊長、ウィリアムさん。 若手で編成されてるアレックスさんの隊の中でも、アレックスさんに次ぐ剣の腕前で次期騎士団のエースとして囁かれている実力派の騎士でありながら傲らず人当たりが良い性格で、アレックスさんに憧れて入隊したのだとか。 「イズルを守る為だ、何がいけない」 「隊長、それは手を握らずとも出来ることでしょう。イズル殿からも言ってやってください」 「はい。アレックスさん、手を繋がなくても大丈夫ですよ」 「だがイズル」 「……アレックス"隊長"、大丈夫です」 「……」 手がスッと離れ無表情になるアレックスさんは、僕に「隊長」と呼ばれるのがあまり好ましくないみたいだ。 でも他の隊員の人たちには効果覿面なので是非頼むと言われているし、現にウィリアムさんが安堵した顔で「ありがとう、イズル殿」と頭を下げてくる。 アレックス隊所属治療師となった僕は、隊長たちから「本当にありがとうございます!」「これで副団長が居なくならない!」「何でも頼ってください!」と歓迎されたのも記憶に新しいまま、「じゃあ仕事を下さい」とお願いして出来たのがこの『街の巡回日』だ。 アレックスさんは街の人たちの安全を確認するのも騎士団で出来ないかと思案していた最中だったらしく、団長に相談して他の隊と代わる代わる街を巡回して警護意識を高めていくこととなった。 騎士の印象が怖いものではなく、近しいものになれればいいとアレックスさんが話していた。 最初は街の人たちも騎士の人たちが巡回するのを遠巻きに見てたけど、安心感を覚えてからは積極的に生活の不備の相談などをしてくれるようになったとか。 そしてアレックス隊の巡回日である『月の曜』は特に街の人たちから喜ばれる、みたいだ。 「本当、隊長とイズル殿が目当ての人たちばかりなんですからね」 「確かに、アレックスさんが通るだけで街の人たちは嬉しそうですね」 「わかります、憧れの副団長を見られるチャンスですからね!」 「2人で何を盛り上がっているんだ」 少し拗ねた様に腕を組むアレックスさんは、どうやら自分の容姿に関心がないようで、よく僕と歩いている時も特にご婦人からの熱視線に対し気付くことがない程だ。 僕ですらあの熱視線に参りそうなのに。 「イズルの治療を心待ちにしている者が多い、最近は噂を聞きつけ他所から人が来ているそうだ」 「確かに、重傷の方が馬車から降りてくることありますね……」 僕を見つけて大怪我や重篤の方が馬車から運ばれてくることが、少なからず増えてきた、かも。 移動の際に命に関わるかも知れない、彼らの街には治療師は居ないのだろうか。 「……移動中に命を落としてしまわないか心配です、僕が出向くことが出来れば……それか各地に治療師が居れば」 「うーん、治療師は別に数は少なくはないと思いますよ。ただ、腕には差異はあるのでしょう。腕の立つ治療師が居ると言う噂に藁にも縋る状況なのでは?」 ウィリアムさんの言葉に、僕なんかよりももっと世界には腕の立つ治療師は居そうだ、それこそトレヴァー隊長とか。 そこでポンと肩に手を置かれる。 「まずは手の届く命を救うべきだ、イズルは1人しか居ない。まだ見えぬ遠くの命も大事だが手を伸ばし届く距離を守る、それは騎士にも通ずる。世界を国を守りたいと願っても1人が振るえる剣は限りがある。治療師も騎士も1人の人間だ、万能ではない」 「アレックスさん……はい、そうですね。こんなところで立ち止まって話し込んでる時間があるなら、足を動かして1人でも多く助けるべきです」 「ああ。ウィリアム、お前もだ」 「はっ!」 アレックスさんの言葉に僕たちは日が暮れるまで街を巡回した、僕は街の人たちの小さな怪我や遠くから来たであろう重傷者の方の治療を、アレックスさんは街の人たちの声を聞いて手伝えることをしながら僕の傍にずっと居てくれたのだった。
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