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机に向かってキーボードを叩き、ラップトップのモニタのスリープを解く。表示されたニュースサイトは、今日も空爆の速報を伝えている。
2000年にわたる離散と迫害の歴史を背負う書物の民は、約束の地に還ることをずっと願ってきた。その悲願は果たされ、建国から今年で75年が経つ。
しかし、そこにはすでに生活を築いている者たちがいた。
結果、対立組織との溝は埋まらず、どちらの陣営においても力を持たない市民が虐げられている。
複雑な歴史があることは否めないが、俺は今回の書物の民陣営の侵攻に、失望を禁じ得なかった。
ジムナーズにいた頃にはぼんやりとした書割のようだった「外」が、現実として生々しく迫ってくる。
キッチンで淹れて持ってきたコーヒーで指先を温め、薄いベージュのブランケットを羽織る。
ジムナーズのサロン室に置いてあったもので、俺のものではない。もちろん持ってきたつもりはなかったが、なぜだかダンボールの中に詰め込まれていたのだ。きっと、エヴァかルーがお節介を焼いて入れたのだろう。
2年前の冬、辛い治療を受けて自室に戻るところだった俺に、このブランケットを羽織ったふたりがサロン室から声をかけてきた。
エドマとベルトのキャンディ、そしてミリアンが淹れた温かいミルクティーを前に、わざとらしく「たまたまお茶があるからアマーリもどう?」とにこにこ笑って。
そして、力いっぱい抱き締めてくれた。泣きじゃくる俺を真ん中にして、3人でブランケットにくるまれながら味わった、あの窮屈で幸せな微睡みは宝物みたいな思い出だ。
今でもこれを羽織るたびに、心も体もじんわりと温められる。幸せな気分だ。
そう言えば、昔からハロウィンが近づいてくると、何か思い出しそうな気がしてそわそわする。
このブランケットに包まれて、うつらうつらしているとなおさらだ。そう、確かこれをくれたのは——。
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