ちびっこ魔法使いの初夜間飛行

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ちびっこ魔法使いの初夜間飛行

*** 「わ~! すごい! うれしい! 僕、大魔法使いみたいだ!」  黒のローブにとんがり帽子姿のルーが、水色の瞳をきらきらさせながらくるくる回る。ローブの裾がふわりと広がり、自慢のカールの赤毛も豊かに跳ねる。 「僕だって! すごいや、マリーナさんとアマーリのおかげだね。ふたりともありがとう」  鏡を見ながらとんがり帽子のつばを撫でていたエヴァが、振り返って俺とマリーナに微笑む。  栗色に近い金の髪が、黒い帽子の下でさらさらと揺れている。優しいヘーゼルの瞳がぎゅっと線になるのを見て、思わず鼻の穴が膨らんでしまった。よかった、喜んでくれている。  マリーナが一際大きな笑みを浮かべて言う。 「喜んでいただけてこちらもうれしゅうございますわ。本当に皆さんお似合いですこと。ところで最終確認ですが、着心地はいかがです? サイズも大丈夫ですか?」  3人で、はーいと声を揃える。マリーナが魔法でぱっと出してくれたローブは軽くて柔らかくて、思わず頬ずりをしたくなる触り心地だ。  表面にはふんわりとした艶があり、少し暗いところで見るとぼんやりと発光しているように見える。  なんとこれは、星影(ほしかげ)の加護が染み込んだ布なんだそうだ。 「これを着ていれば、どんな初心者でもまず落下事故を起こすことはありませんからね。しかも、防寒性も抜群!   それにしても、こーんなにかわいいちびっこ魔法使いちゃんたちと夜空のお散歩に行けるなんて、なんて役得なんでしょう! ささ、皆さん、(ほうき)にまたがって~~On n'y va(オニヴァ)(レッツゴー)!」  おー! と声を上げ、おっかなびっくり窓から夜空に飛び出した俺たちだったが、ふわん、ふわん、と宙を跳ねるような動きと、足の裏がどこにもつかない感覚になかなか慣れない。  怖くなるから下を見ないようにとマリーナに助言を受けているが、乗りこなすのに必死で恐怖を感じるどころではない。  そんな中、エヴァはすぐにコツをつかんで、さっそく「見てよ、アマーリ!」と箒の柄から両手を離して見せた。 「エヴァ、お前っ……危ないぞ! マリーナもなんとか言ってやってくれ」 「おほほ、エヴァさんお上手~! 星影のローブを着ている限り、箒から落ちてもふ~んわり地上に降り立つだけですからね、だいじょぶでーす」  なんだか悔しくて、ううっ、と唸ってしまう。メガネには星影の加護が効いていないのだから、俺は慎重にならねばならない。  俺は未だにふわん、ふわん、と目に見えない波に揺られているような浮き方をしているが、エヴァはもうまっすぐに飛べるようになってきている。  エヴァは運動が得意だが、上達が早いのはそればかりではないのではないか。何しろ、3人のうち本物の箒に乗っているのはエヴァだけなのだ。 「わ~~~ん! 皆ひどいよ、なんで僕だけこんなんなのさ~!」  未だに屋敷の屋根付近で、ほんのちょこっとだけ浮いているルーが叫ぶ。ルーは何にもまたがっておらず、直立不動の姿勢で立ち尽くしている。  それもそのはず、ルーがコイントスで引き当てたのはなんとお掃除ロボットだったのだ。  平たい楕円形の上で控えめに地団駄を踏み、「置いてかないでよ~」と泣いている。 「ルー、わがままを言うな! 俺だってコードレス掃除機なんだぞ! それに、そっちのほうがバランスが取りやすそうだ」 「最近箒のある家なんてなかなかないですからね~。でも別に、機能的にはなんら問題ございませんので! なのでアマーリさんがふわんふわんのぷわんなのは、掃除機のせいではないですよ。それにルーさん、なんか近未来的でかっこいいです!」  愚痴を言いたくなる心を見透かされていたのが恥ずかしい。ルーのほうは、普段言われ慣れない「かっこいい」にすっかり機嫌をよくしたようだった。 「よ、よ~し……じゃあ、行くぞ! ふたりとも、手を取ってよね」  エヴァがすいーっと、俺はふわんふわんとルーに近づき、それぞれルーの手を握る。  お掃除ロボットの上でぶるぶる震えていたルーだったが、ぐっと前傾姿勢になるとふわ~っと前に進み始めた。「わーっ、楽しいっ!」という声に、俺たちまでうれしくなる。  マリーナがいるところまで3人で手をつないで飛んでいき、あとは笑い声やときに悲鳴を上げながら練習をした。
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