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星のキャンディぱくぱく合戦
エヴァは宙返りまでできるようになり、ルーも「お空のサーフィンだ」と慣れてきたようだ。
俺も少し不安定ながらなんとか行きたい方向に飛べるようになったところで、本格的に空中散歩のスタートだ。
「もっとも~っと高度を上げて、皆で大きなお月様を見ましょう! よっしゃ行くぞー……じゃなかった、参りますよ~!」
おーっ! と再び雄叫びを上げ、皆でマリーナの後ろについて行く。夜風は冷たいが、ローブがはためくたびに優しい熱が湧き上がる。
飛行に慣れると、髪や服が風になびく感じとか、どこまでも自由自在に行ける爽快感なんかを、めいっぱい味わえるようになった。
ジムナーズの敷地を超えると、やがてちらちらと人里の灯りが見えてきて皆で歓声を上げる。オレンジ色の地上の星だ。
そんなとき、はしゃいで息が上がっているエヴァが言った。
「星って遠いんだなぁ、全然近づけないや。いつか星を食べてみたいって思ってたのに」
焦がれるような視線に誘われて、俺も天空を見上げると、きらきらしたビーズを一面に散りばめたみたいに青い光が瞬いていた。
「僕も僕も!」と瞳を輝かせるルーに、マリーナが首を横に振る。
「ダメですよ、あいつらにも一応命ってもんがあるんですから。にしても、星ってちょっと、人間的には残酷だな~って感じるとこもあると思いますよ? 全然違う論理を生きてますからね」
ろんり? とふたりが首を傾げると、マリーナは「ま、それはいいけど」と言いながら宙から金に光るステッキを取り出し、えいっとひと振りした。
しゅわっという音とともに、細かな光の粒が俺たちの間を走り抜ける。真ん中には光の核があって、まるで魔法から生まれた箒星だ。
星はその姿を見せびらかすように、声を上げる俺たちの顔の前をゆっくりと行き来し、ぱちぱち弾ける小気味よい音を立てた。
「さあ、ちびっこ魔法使いちゃんたち。マリーナ特製の星のキャンディをご賞味あれ!」
マリーナがステッキを大きく振ると、今度は数えきれないくらいの星が一斉に生まれる。
俺たちはほとんど悲鳴のような笑い声を上げながら、皆で星を追いかけた。あむっ、と黄色い星を食べたルーが、ほっぺたを両手で包み込む。
「レモネードだ~!」
「ええっ、色によって味が違うのかな? 僕のは……」
エヴァが水をすくうように差し出している両手の中では、緑色の星がしゅわしゅわと尻尾を揺らしている。
エヴァは「かわいい、食べるのかわいそうかも」と躊躇したが、「その子、エヴァさんに食べてもらいたがってるんですよ」というマリーナの言葉に押され、目をつぶって口を開ける。
すると、緑の星はしゅるんとエヴァの口の中に飛び込んでいった。
「お、おいしい……! 僕のはメロンソーダだったみたい。アマーリは?」
俺はさっきから、書物の民の食事の決まりのことを考えていた。
たぶん、星を食べてはいけないなんて規則はない気がする。うん、ないだろう。よし。
手にしていた赤っぽく光る星をぽいっと口に放ろうとしたが、そいつはくるくると俺の顔の周りを泳ぎ回ると、タイミングくらい自分で決めますから、という感じで口内に飛び込んできた。
魔法でできた偽物の星のくせに、なかなかに気位が高い。でも、とびきりおいしい!
「俺のはイチゴと……リンゴと……プラムに……桃? ううん、不思議だ! 全部のフルーツの味がするぞ!」
「アマーリさんおめでとうございます! 大当たり~!」というマリーナの声に、ふたりが「えーーーっ」と羨望混じりの声を上げる。そこからはもう皆遠慮なく星を追いかけ、競って口をぱくぱくさせた。
星のキャンディはすぐに溶けていくので、次から次に違う味を楽しめる。俺たちの口の中は、赤や緑、黄色や菫、かと思えば青や白にと忙しく光り輝いた。
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