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林檎に蜜柑、さくらんぼ、宝石のような果実が彩り鮮やかに盛り付けられている。
ケーキの形はとても華やかで、ショーケースに並ぶケーキはどれも美しい芸術品のようだった。店名の『彩菓』のなんと相応しいことか。
「凄いわ。こんな綺麗なお菓子見たこと無い。博物館だわ。ケーキの博物館」
一体どんな人が作っているのか気になり店内をきょろきょろと見回した。
奥のキッチンに一人の青年が立っていた。洋菓子職人だろうか、深い眼差しと優雅な手つきでケーキを丹念に作り上げている。
青年の細く長い指は魔法使いの杖のようだった。
あらゆる果物を芸術品に変え、林檎の皮は虹の一筋に姿を変える。
バタークリームの花は時に非現実的な色をしていたけれど、それはまるで果てしない夢や望みが閉じ込められた瞬間のように感じられた。
それを頬張るたびに、客の顔は喜怒哀楽がはじけて輝いていく。
薫子は案内されるのを待っていられず、ふらふらとケーキが間近で見れるショーケース近くのカウンター席へ腰かけた。
薫子に気付いた店の青年はにこりと微笑みこちらへやって来た。
「いらっしゃいませ。こちらをご覧になってお待ち下さい」
青年はウェイターも兼任しているのか、メニューを置くとミルフィーユと生クリームの入った小鉢、果物をたくさん持ってスーツを着た男性客の席に立った。
「お待たせしました。『時を刻むミルフィーユ』でございます」
耳をそばだてていた私は眉をひそめた。
(……時? ただのミルフィーユじゃないの?)
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