映る影、変わる時

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「そう言ってもらえると嬉しいです。ぜひお願いします。僕は黒田誠一といいます」 「桐島薫子です。よろしくお願いします!」  こうして薫子は新たな一歩を踏み出した。黒田彩菓茶房でお客様とどう過ごすかを学べば、商品の入れ替えをしなくてもやっていけるようになるかもしれない。 「経理関係は得意です。帳簿ってありますか? 今までの収支を知りたいです」 「さっそくやってくれるんですか? 頼もしいです。ではこっちに」  薫子は誠一に連れられカウンターの中に入った。誠一は一つの帳面を開き薫子に見せる。 (これだけお客様の心を掴んでるなら凄い黒字じゃないかしら。ケーキの一つや二つあげたところで痛手にならないんでしょうね)  薫子も飴玉一つあげる程度のことはあった。食べ物には賞味期限があるので廃棄するくらいならあげてしまおうと思ってのことだ。  だがそれが次の収入になるわけではない。それだけのことだ。  しかし誠一は違う。大事なのはケーキではなくその気持ちだ。気持ちを掴んだのならお客様は何度も来てくれるだろう。そういう成立の仕方なのだろう――と思い帳簿を見た。  そして薫子は帳簿に書いてある数字を見て愕然とした。  帳簿は帳簿と言えないくらい雑なものだった。薫子にとって帳簿はどれが何の費用か、一目瞭然分かりやすくなっている物だ。だがこれは飛び飛びに数字が散らばっていて何が何だか解読に時間がかかる。  だが一つだけ一目瞭然なものがあった。それは帳簿が一面真っ赤であることだ。 「何ですかこれ! 大赤字じゃないですか!」
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