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「薫子。ちょっとこっち来て座りなさい」
「損益計算書の計算途中なの。後じゃ駄目?」
「駄目だ。お茶と、何か茶菓子出してくれ。ちゃんとしたやつ」
父はやけに真剣な顔をしていた。赤字経営が続き笑顔は少なくなっていたが、輪をかけて表情が暗い。
「お茶菓子出すほどのお客様が来る予定は無かったと思うんだけど。誰?」
「ミスミさんだ。今後のことで色々な」
「え? ミスミってミスミ洋菓子店?」
「ああ。急いで」
父に急かされ座椅子から立ち上がり台所へ向かった。
ちゃんとした茶菓子ということは駄菓子では駄目なのだろう。ならばと薫子が取り出したのは近所の商店街にある老舗で大人気の羊羹だ。
父と食べようと思って買っておいたの貴重な逸品で、他人に出してやりたくなどないが仕方がない。
薫子は渋々羊羹とお茶を持ち居間へ行くと、和室に似合わないパリッとしたスーツ姿の男性が二人座っていた。いかにもミスミ洋菓子店の雰囲気に相応しい。
横に膝を突きお茶と羊羹を出してやると爽やか微笑みを返してくれた。
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