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「どうぞ」
「有難うございます。古賀翠鶴堂さんは四季の表現が優美で素晴らしい。弊社も季節のケーキには力を入れているんです。よろしければどうぞ」
男が慣れた手つきで出してきたのは直線的で温かみが感じられない白い箱だった。
中身は開けずとも分かる。ミスミ洋菓子店のケーキなのだろう。きっと町の人々なら喜んで飛びつくに違いない。
けれどミスミ洋菓子店のせいで経営難に陥っている桐島駄菓子店としては、こんな物を土産にすることも、羊羹を出した後で出してくる神経が知れない。
父も白い箱には手を付けず、深く息を吐くと薫子が淹れた茶の入っている丸い茶碗に手を伸ばし一口飲んだ。それからようやく口を開いたが、やはりその声は重い。
「それで、ご用件というのは?」
「はい。実は来年の春に新店舗を出すことが決まりました。桐島さんにもぜひご参加いただきたいと思っています」
男は光沢のある高そうな用紙で作られたパンフレットを取り出した。
パンフレットには『完成予想図』と書かれていて、その景色は桐島駄菓子店の周辺も含めた絵が描かれている。
だが桐島駄菓子店があるはずの場所には白い洋館が描かれていた。
その絵を見れば男たちが何を言いに来たのかは聞かずとも分かった。
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