序幕

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「店を畳めということですか」 「いいえ。双方の良いところを活かしたいんです。弊社は桐島さんのように子供に身近な手頃なお菓子が不得手なのでお力添えを頂きたいと思っております」 「でも店はミスミ洋菓子店で、ミスミさんの商品になるわけですよね」 「新銘柄は桐島さんの名を付けて良いですよ。御社にも心機一転となるでしょう?」  薫子はぎりっと拳を強く握りしめた。  男の言い分は自分のことしか考えていないうえ、上から目線で都合の良い言葉選びしている。自分たちの姓である桐島の名を使うことに何故許可が必要なのか。 「看板が無くなるなら閉店と同じです。私達に行き倒れろと?」 「とんでもない。ご主人には弊社の商品企画や卸に参画頂きたいんです。もちろん社員として給与をお支払いします」 「は? 父の経験と縁をお金で奪うってことですか?」  薫子は思わず口走った。父の顔を潰すようなことをしてはいけないし、足を引っ張るような物言いをしてはいけないことも分かっている。  けれど父の人生をミスミ洋菓子店の拡大に利用されるのは我慢ならなかった。
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