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「うちは倒産が見えてる。給料を貰えて新時代へ再出発は悪くない」
「何言ってるの! 悪いわよ! 立ち退きに大義名分を付けてるだけじゃない!」
「分かってるよ。だが根性だけでは生きていけないんだ。お前は嫁ぎ先を探して良い年だし、引き際なのかもしれん」
父はもう諦めているようだった。客を取り返す算段が無い以上、ミスミ洋菓子店の中で生きていくのも一つの選択だというのは薫子にも分かっている。
けれど、やはり薫子は頷けなかった。
「諦めるのは早いわ! ようは黒字になればいいのよ!」
「けどお前が嫁に行ったらどのみち先もない。良い機会かもな」
「よし分かった! ついでに婿も探そう!」
「……正気か?」
「正気よ! 黒字にできるお菓子職人見つけりゃいいんでしょ!」
薫子は立ち上がり、窓の外に見えるミスミ洋菓子店を睨んで拳を振り上げた。
「見てなさい! 一年以内に潰してやるんだから!」
父が呆然としているのは分かっていた。けれど止めなさいとも言わなかった。
こうして薫子は父の人生そのものである桐島駄菓子店の看板を掛けた戦いに挑むこととなる。
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