映る影、変わる時

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 休日なので人通りが多い。洋装が浸透しきっていないから着物の人もいる。  薫子には馴染み深い光景で安心するが、洋風の建物が増えている街中で『古き良き日本』にこだわる姿は薫子でも滑稽に思えた。  薫子は慣れないパンプスをかつかつと鳴らして街を駆け抜ける。  歩けばあちらこちらに洋風の喫茶店があったけれど、その全てに入店し飲食するほどのお金は無い。  外から見える範囲で店内を観察し、雑誌で気になっていた数店だけ入ってお菓子を食べてみたがどれもこれもミスミ洋菓子店を彷彿して美味しいとは思えなかった。 「変わり種の店とかないかな。あ、ここは……本日十二時から……?」  似たり寄ったりの看板だが、休日の午前中に営業しないとは恐れ入る。 「東京ってこんな舐めた営業でもやってけるの? 恐ろしい街だわ……」  毎日店を開けても赤字の薫子からしたら信じられない経営だ。  すっかり感覚がついていけず、それでも負けじと歩き続けて十二時を回った頃、いつの間にかミスミ洋菓子店本店の前に戻って来ていた。 「どこも西洋菓子を並べてるだけだったわ。うちにも置けばやっていけるのかもしれないけど、それもなんだかな……」  初日で成果が出るとは思っていないけれど、想像以上に西洋菓子が並んでいるだけだった東京に早くもげんなりし始めた。  自然豊かな秩父の地が懐かしくなり、まだ二時間だけどもう帰りたい。  足が駅に向いたが、かかとに激しい痛みが走った。 「痛っ! 何⁉」  かかとをみると、白いパンプスが赤く染まっていた。慣れない靴をを履いたせいか皮膚が擦れ血が滲んでいる。 「新品の鼻緒みたいなことが起きるのね、靴って……」  西洋から入って来た靴には馴染みがないのでそんな現象があるとは思いもしなかった。 「まったく。西洋文化ごと憎く思えてきたわ。薬局あるかしら」  このまま歩くことはとてもできない。薫子はきょろりと辺りを見回したが、ふいに水滴が頬を濡らした。 「うわ、雨?」
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