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マリアが千夜子と呼んだのは、顎のラインでバッサリ切りそろえた漆黒の髪の少女。日本人形のようなその整った顔立ちが、不機嫌さを隠さないでいると、かなり迫力がある。
ぱっちりした目でひと睨みされる。慣れてはいるが、やはり怖い。
私は苦笑した。
千夜子がマリアに訴えた。
「ほら、この顔。この愛想笑い。もーぉ、ほんっと、なんでこんな娘をまいっっっっかい口説くのよ。こっちにぜんっっっっぜん興味ないんだから、ムダよ、ムダ」
「あら、手強い方が落としがいがあるじゃない」
マリアはにっこり笑って窘める。
私は再び苦笑した。
「そんなゲーム感覚で、私の寿命を弄ばないでください」
マリアは、ふふふ、と笑った。
「あなたは気づいているはず。ただ目を逸らしているだけ」
マリアの瞳が、きらりと金色に輝いた気がした。
マリアは千夜子の頬をさらりと撫でた。
「私と千夜子は、"普通"とは大きく離れた所を歩いている。遠く離れたところから、誰もが歩く大きな道を眺めている感じ。大きな道は賑やかで、明るくて、楽しそう。でも私たちはそこへは行かない。行けないと言って差し支えない。理から外れて久しいし、今さら戻る気もない」
千夜子がマリアを見上げてほほ笑んだ。マリアはまるで娘を見るかのような、自愛溢れる視線を返した。二人の見た目の年齢は、同じくらいのはずなのに。
二人が私を見た。
「あなたが感じている違和感に、近いでしょう?」
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