Sparkling Birthday-14-

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Sparkling Birthday-14-

ネクタイをロール状に丸めて鞄にしまい、スーツの上着を左腕に掛け、僕はリビングのソファーから立ち上がった。 朝の5時30分。 鞄を手に持ち、玄関ホールへと続く廊下を、なるべく足音を立てないよう静かに歩いた。 ベッドルームの前を通り過ぎ、玄関ホールまで来ると、三和土の上には自分の革靴のみが揃えて置かれていた。 2日前の夜、ここに履いてきた時よりも艶があり、知らない間に誰かの手によって丁寧に磨かれたのだということがわかる。 一体どんな顔をして、これを磨いたのだろう。 頭の中に思い描いた彼の様子は、真剣な顔をしながらもどこか楽しげなもので、勝手な想像とはいえ、僕の頬は自然と弛んだ。 靴を履き、ふと玄関のドアを見ると、ポストがついていないことに気がついた。 (ああ、だからエントランスのポストに、か) エントランスのポストだと、僕が間違えて他所のポストに鍵を入れてしまう可能性もあるし、なにより防犯上よろしくない。かと言って、眠っている彼を起こすのも気が引ける。それならせめて、間違える可能性の低い玄関ドアのポストに、と、考えていたのだが……。 (しかたないな……) しばし逡巡した後、履いたばかりの靴を脱ぎ揃え、上り框の端に鞄と上着を置いた。 そして僕は、まだ眠っているであろう彼がいる寝室へ向かった。
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