Sparkling Birthday -1-

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Sparkling Birthday -1-

今日は僕の28回目の誕生日だ。 それを一緒に祝ってくれるような恋人はいないし、家庭も持っていない。 友人たちからはLINEで、一言二言の短いメッセージとスタンプが届いた。 数は多くないが、覚えてくれている人がいるという現実が、固く閉ざしがちな僕の心をほどよく緩めてくれた。 就職して6年経ったが、その間、自分の誕生日を誰かと一緒に過ごしたことはない。 今年もひとりかとは思ったけれど、寂しいとは思わなかった。 ひとりで行動するのは得意だし慣れてもいるけれど、常にひとりでいたいわけじゃない。 今日みたいな特別な日には、誰かと一緒に過ごしたいと思うこともある。 今ではこんな僕だけど、学生の頃は彼女がいたし、それなりの経験もしてきたつもりだ。結婚だって考えていた。 そんな僕が社会人になって好きになったのは、同期入社の男だった。 まさか同性を好きになる日がくるとは思っていなかったから、その気持ちに気づいたときはかなり戸惑った。 もしこの気持ちを他人に知られることになったら、変な噂がたって彼に迷惑がかかるかもしれない。 僕に対して彼が余計な気を遣うようになるのも、なんとなくだけど想像がつく。 そんなことになったら、彼と同じ部署の人たちは訝しがるだろうし、その原因が僕だということをすぐに突き止めてしまうかもしれない。 そうなったら僕はこの会社にいられない。 いや、僕だけならいい。 もしかすると彼まで居づらくなって会社を辞めてしまうかもしれないし、そうなったら更に多くの人たちに迷惑をかけることになるだろう。 すべて、僕一人のせいで。 だから僕は、顔や態度に出ないように、余計なことを口走ってしまわないように、会社の人たちとのコミュニケーションは最低限のものになった。 入社当初は同僚にランチや飲み会に誘われることが多々あったけど、それも徐々になくなって、6年経った今では親しみを持って僕に話しかけてくる人間はほとんどいない状態になった。 そんな中でも唯一、彼だけは変わらなかった。 彼とは部署が違うが、パーテーションはあるものの壁のない同じフロアにいるせいか、ことあるごとに話しかけてくる。 そんな彼は、今日もパーテーションの向こう側で残業をしている。 彼が定時であがったところなんて、僕は見たことがない。 手伝えることがあるなら手伝いたいが、部署が違うからそう簡単に「手伝おうか」なんて言えないし、言ったところで今の僕には何もできない。 業務内容が違うから、というのはもちろんだが、僕と彼では能力レベルが違いすぎるのだ。 周りから期待され、その期待以上の成果を出し続けている彼と、期待とは縁遠く与えられた仕事を日々淡々とこなしていくだけで精一杯の僕とでは雲泥の差だ。 彼の周りには自然と人が集まり、いつもそこだけが明るく輝いて見えた。 常に眉間に皺を寄せているような気難しい上役たちも、彼と話をした後はだいたいが笑顔になっている。 それに比べて僕は……、と、だんだん惨めになってきた僕は、そこで考えるのをやめた。 気分転換にデパ地下で、ちょっといいケーキでも買って帰ろうと思い席を立った。   * * * * * そして今、僕は迷っている。 色とりどりのスイーツが並ぶショーケースの前で、小さいのを何種類か選んで買うか、ホールケーキをひとつ買うか。  散々迷って、二人分の大きさのホールケーキを買うことにした。 僕は甘いものが大好きで、しかも普段から結構な量を食べるので、これくらいなら一人で食べ切れる。 年齢的にそろそろ節制した方がいいのかもしれないが、今日は誕生日なので自分を甘やかすことにした。 注文しようと店員さんを呼んだところで、後ろから肩をトントンと軽く肩を叩かれた。 振り向くとそこには、会社で残業しているはずの彼が立っていた。 「あ、すいません、予約しておいたケーキ取りに来たんですけど……」 僕が呼んだ店員さんに、彼は自分の用件を伝え始めた。 「おい、僕の方が先に」 「あ、お前は今日、うちに来い」 僕の言葉を遮ってそう言うと、彼は素早く会計を済ませ、ケーキを受け取った。 「ほら、行くぞ」 「え、ちょっと」 「お前、今日は誕生日なのに、ひとりだろ」 「だからなんだっていうんだよ」 「しょうがねえから俺が祝ってやるよ」 ケーキを持っていない方の手で僕の背中を押し、彼は半ば強引に、僕を自宅へと連れて行った。
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