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子どもの頃、私は少し高台になる高速道路から、上から見下ろすように景色を眺めるのが好きだった。そんな時私は、何故か自分の胸がときめくような『道』を探したくなった。道にときめくなどおかしいと思われてしまうが、私は、カーブの形状とか、道の脇の草木の茂り方とか、舗装されていない土の色や質感とか、程よく行く先の見えない神秘性とか、そんな条件が備わった道を見つけると、胸がぎゅっと締め付けられるようなときめきを覚えた。子どもの頃は無理だったが、今ならそんな道を見つけたら、そこに行って車を走らせたり、歩いたりすることもできる。
でも、遠出をする時はいつも旦那の運転だし、高速道路など最早二十年以上も運転していない。更に方向音痴というのも相まって、一人で当てもなく高速道路から見つけた道を探すなど、自分にはかなりハードルが高い。
「あ……」
私は思わず、車窓からの景色に声を漏らした。
「何?」
旦那が不思議そうに私に問いかけた。
「いや、別に……」
今、私と旦那は東京に住む娘に会いに高速道路を車で走っている。関東の田舎に住んでいる私たちは、こうやってたまに東京に遊びに行く。特に何をするわけでもないが、娘のアパートに泊まり、適当に行きたい街に行き、そこで食べたいものを食べたり、酒を呑んだりして過ごす。まあ、それはもっぱら旦那がやりたいことであって、私は一人では寂しいという旦那に付き添っているだけ。でも、そんな私でも、ずっと田舎に住んでいると、正直都会の空気を味わいたくはなる。
田舎という刺激の少ない世界から、東京という刺激の多い世界に行くという非日常が、やはり我々には必要だ。その欲求は発作のように定期的に現れる。特に旦那には。
「何? 気になるよ」
旦那は不機嫌にそう言う。この人はこういうことに敏感だ。隠し事をされているようで嫌なのだ。それが私には少し煩わしい。
「……仕事で大事なこと忘れてたの思い出したんだよ。敢えて言うほどでもないから」
「だったらそう言えばいいじゃん」
「そうだね。確かに。ごめんね」
私は溜息を吐きながらそう言う。何で一々謝らなければならないのだろう。私は少し憤る。
だめだよ。だめだめ。
運転をしてくれる旦那を気遣いもせずに、本当はときめく道を見つけてしまったそんな呑気な自分に、少々の罪悪感を覚えながら、私は心の中を静かに均していく。
喧嘩をしている場合ではない。だってたった今見つけてしまったのだから。自分史上かなり胸がときめく道を。
私はさっき、道の場所に一番近いインターチェンジを案内標識で覚えようとしたが、旦那に突っ込まれたせいで見落としてしまった。
あー、くっそ。
私は憤りが再燃したが、ぐっと腹の奥を静ませる努力をする。
道の映像だけはしっかり記憶したんだけどなぁ……。
でも、私が道の映像を覚えたとして、残念だけど、自分の運転でそこに行くことはきっとないだろうと、そうぼんやりと思ったりもした。
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