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幸せな日が今日も訪れるはずだった。隣で眠る愛おしい人をじっと見つめる緋奈。男性よりも先に目を覚まし、智の寝顔を眺める。これが彼女の日課であった。
そして、いつものように頬にキスをする。
「愛してるわ」
緋奈がそう告げると智の身体から穴という穴から真っ赤な華が噴き出した。その血を浴びた彼女は身体を震わせ、目を大きく見開き、絶叫した。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ーーー彼女は愛しい人に想いを募らせたぶんだけその人を殺す病にかかってしまいました。
その日から、彼女は恋をしなくなった。元々美しかった彼女は愛おしい人を殺してしまったことで、感情を失い、なんの感情も持たない人形のようになってしまった。
ーーー恋をすると愛おしい人が死ぬ。
かわいそうに。きっと、誰にも言えないだろう。
彼女に惹かれる男性は多い。
エリートな男性。
イケメンな男性。
誠実な男性。
どんなに高スペックな男性が声をかけても、彼女は靡かない。
そんな彼女には唯一、感情を見せる人がいた。
「緋奈さん」
「慎一くん」
愛おしい人にそっくりな慎一が緋奈に話しかける。
そう、彼女が殺してしまった男性の弟である。
「ちゃんとご飯食べてます?」
「食べてるわ。心配ありがとう」
慎一はあの日から、緋奈の様子を見に来るようになった。放っておくと彼女は食事を取らないからだ。今にも倒れそうな身体をしている。
「そろそろ兄貴のことは忘れて、次の幸せを見つけませんか?きっと、兄貴もそう望んでいます」
「……いいえ」
彼女は頷かない。
「なんか、いい人とかいないんですか?もう兄貴が死んでから5年も経ちますよ。高校生だった俺はもう社会人になりましたよ」
「いい人がいたとしても、好きにはならないわ」
「…なんでですか?」
その問いかけに緋奈は今にも泣きそうな顔で微笑む。
「私が好きになると、その人は死んじゃうの」
だからもう二度と人を愛さない。
彼女はそう言った。
慎一は納得できなかった。
なぜなら、弟は主人公のことが好きだったからだ。
初めて会った時から好きだった。兄貴の恋人だったから、諦めていた。本当は2人で幸せになってもらいたかった。
けれど、あの日、兄貴の死体のそばで涙を流していた彼女を見つけ、俺がそばにいてあげないとと誓った。それが兄貴への弔いにもなると思ったからだ。
どうしたら彼女の心を救える?
慎一はあることを思いついた。
それは、ひどく優しくて、
ひどく残酷なものだった。
先ほど彼女は言った。
人を好きになると、その人が死ぬと。
ならばーーー。
「兄貴の代わりでもいいから…俺のことを好きになってくれませんか?」
慎一は確信していた。
彼女は絶対に俺のことを好きにならないと。
けれど、恋人として接してはくれるだろうと。
そうすれば、彼女は孤独にならずに済む。
そうすれば、俺は彼女を永遠に愛し続けられる。
慎一の言葉に目を大きく見開いた緋奈。そして、震える声で曖昧に笑った緋奈が言いかけた言葉はどうしようもないほど美しい嘘を予感させて、弟はその言葉の続きをただじっと待っていた。
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