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私の初恋は、私に優しく手を差し伸べてくれたヒーローでした。
あれから、数年が経ち、私は未だにあの人のことが忘れられなかった。あの人は学校の人気者で、明るくて、優しくて、いい人だった。
あの人の周りにはいつも人集りができていて、その中に私は入ることができなかった。できなかったというよりも、人の多いところが嫌で自分から行こうとはしなかった。
遠くから見ているだけで、満足だった。
けれど、私はあの人が好きで、好きで仕方なかった。いつどこにいても考えるのはあの人のことばかり。
このままだと、生活に支障をきたすと思った。だから、告白することにした。
振られる覚悟で、告白した。
想像外だったのが、あの人が私の告白を受けたことだった。
信じられなくて、夢だと思った。
次の日、朝、駅から降りたら、あの人がいて。
どうしてだろう?
「付き合ってんだから、一緒に行ったり、帰ったりするのは当然だろ」
あの人の言葉に私がどれだけ嬉しかったか。
今思えば、私はあの人の言葉に振り回されてばかりだった。
付き合い始めても、私の心は満たされなかった。それはなぜか。
あの人は友達が多かった。友達が多いのはいいことだ。けれど、なによりも嫌だったのは、あの人はパーソナルスペースが狭かったことだ。
気に入った人にはすぐに触ったり、話したりする。そんな人懐こいところもあの人のいいところではあった。ただ、女子相手にもそんなことをするのが嫌だった。
けれど、私は嫌われたくなかったから何も言わなかった。
ただ、静かにあの人を見つめているだけだった。
あの人は私の一つ上の先輩だった。だから、先に卒業するのも当たり前で。
「おれ、陸上に集中したいから別れよう」
そう言われた時、ショックを受けたのをよく覚えている。
けれど、私はあの人が走る姿を見るのが好きだった。あの人から陸上を奪うことなんて、できなかった。だから、「分かった」と答えた。
友達に戻ることなんてできない。そりゃ、そうだ。
だって、私とあの人はもともと友達じゃなくて、先輩と後輩だったから。
それでも、初恋というものは残酷だ。その人の姿をつい探してしまう。
その人の笑顔や温もり、言葉がいつまでも頭の中にこびりついて、消えない。
「初恋は実らない」なんて言葉があるくらいだ。
私はあの人が初恋だった。たまらなく、好きだった。
だから、あの人が卒業する前にこの初恋を終わらせようと決めた。
高校の卒業式。
私はあの人を呼び出して、再び告白をした。
「あの日、私に差し伸べてくれた時からあなたは私のヒーローでした。
あなたの走る姿が好きでした。
あなたの笑顔が好きでした。
あなたはいつだって、私の欲しい言葉をくれた。
私はずっと、あなたが好きでした。
付き合ってくださいとは言いません。
私はずっとあなたを応援しています。
――――卒業、おめでとうございます」
泣くな。耐えろ。
笑え。
「さようなら、先輩」
「ーーあぁ。ありがとうな。さよなら、夏希」
あの人の背中が見えなくなるまで、手を振り続けた。
校門の角を曲がったところで、あの人の背中が見えなくなった。
その瞬間、涙が溢れ出した。
―――さようなら、私の初恋。
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