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放課後のサイゼリヤで幼馴染みとお話しするのが当たり前となった俺は、今日も心の奥で燻っている想いを隠すのだった。
「ねえねえ」
明るくて高めな声が俺を呼んだ。コーラを飲み干し、「なんだよ」と答える。
「あたし、そろそろ彼氏作ろうかな」
「へえ。急にどうした」
冷静を繕っているが、内心ではかなり動揺していた。
「友達がさ、彼氏できてめっちゃ幸せそうなの!!羨ましくない!?」
パンケーキを頬張りながらそう言ってくる。色気より食い気。
「彼氏が欲しいって言ってもさ、どうやって作るんだよ」
「…?」
まじかよ。
首を傾げて、考える仕草をした幼馴染みに俺は頭を抱えた。
「質問を変えるわ。好きな人とかはいるのか?二次元とかはなしな」
「二次元はダメなの!?」
「当たり前じゃ。ボケ」
しばらくして、幼馴染みは小さな声で「…いる」と答えた。
「…は?」
俺はこの時、きっと間抜けな顔をしていただろう。
生まれてからずっと一緒だった。幼馴染みに好きな人がいることに気づけなかったからだ。
「だ、誰だ?」
落ち着け。
「空手部の主将…」
まじかよ。
「そうか」
「どうしたらいいかな!?」
「どうって、告白すれば?」
喉が妙に渇いている。変な汗が出てきた。
「えー」
「ほら、当たって砕けろ、だよ」
「あたしがフラれる前提!?」
ギャーギャーと喚く幼馴染み。お前はそのまま、バカでいればいいんだよ。
次の日。幼馴染みはバカなくせに行動力だけはあった。
いつものように家の前で幼馴染みがやってくるのを待つ。約束の時間になっても、幼馴染みは来なかった。
変に思った俺はおばさんに「あいつは?」と聞いた。
「なんかね、朝から妙に張り切っていてねー。一時間前に家出たのよ」
は?
張り切っていた?
嫌な予感をした俺は学校まで本気で走った。――この時の俺はオリンピックで金メダル獲れるんじゃないかってくらい速かった。
その嫌な予感は当った。
顔を赤くして、空手部の主将と何かを話している幼馴染みを見つけた。
「おい!」
声をかけると、幼馴染みはパァッと嬉しそうに笑った。
「聞いて!告白したら、受けてくれた!」
…え?
頭の中が真っ白になった。
空手部の主将は俺を見て、軽く頭を下げた。
「彼氏になってくれるって!」
ああ、遅かったか。
俺は手で顔を覆った。昨日、煽るようなことを言ったからだ。
そのせいで、こいつは行動に出た。
あまりにも静かな俺に心配したのか、幼馴染みは駆け寄った。
「どうしたの?」
小さな体。大きな目。その全てが俺の全てだった。
「好きだ」
思わず、そんな言葉が出た。幼馴染みは目を大きく見開いたが、すぐに笑う。
「うん?あたしもだよ」
「違う、大事な人という意味でだ」
きょとんとしながらも、幼馴染みは大きく笑った。
「知ってる!あんたはあたしの最高の親友だよ」
その言葉にゴツーンと硬いもので頭を殴られたような気がした。
俺はずっとお前が好きだった。その想いは報われることはなかった。
「――当たり前だろ。…よかったな」
ようやく絞り出した声は震えていた。
「じゃあね!」
いい笑顔で彼氏の元へ走って行ったその小さな背中を見送る。見えなくなるまで、必死に耐えた。そして、見えなくなった瞬間、膝から崩れ落ちた。
嗚咽を漏らす。
一緒に笑える時間が大好きだ。――大好きだった。
お前が愛おしくて仕方なかった。愛していた。
俺は泣き叫んだ。声が枯れるまで。もう二度と涙が出てしまわないように。
次の日の朝。俺はいつものように幼馴染みの家の前で待つ。スマホで顔を見る。赤くなっていないよな…?
「あ、おはよ!」
大きな声が俺を呼ぶ。振り向いて、「おう」と答える。
俺は今日も笑顔を繕う。
「今日も相変わらずうるせー顔してんな」
意地悪な幼馴染みとして。
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