魔法のある世界

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魔法のある世界

ce7c05a0-cf44-47ed-9665-02916c9a6c4e 前世の記憶を思い出した事でこの世界に対して希望を持った事柄がある。 そうーー この世界には魔法が存在するのである。 人間にも魔物にも魔力があり、それでいて魔法の使い方は秘匿されている事もあり、魔法を使える人間は限定されているのだが… それでも魔法が存在している。 国立学園が下級貴族の子女や富裕平民の子女が通う学校である一方で 王立学園は上級貴族や王家の子女が通う学校である。 国立学園では魔法の使い方は習えず三年間の学習課程の内最初の一年は一般常識ベースの教養。後の二年間は専門の専修課程となる。 一方で、王立学園では魔法の使い方が習える。 そういう格差がある。 建前上の理由として 「魔力枯渇による死者を出さないため」 というものがあるにはある。 王族や上級貴族は魔力が多くて魔法を学べば使えるようになるが それ以外の者達は魔力が少なくて魔法を学んでも使えるようにならない。 下級貴族や平民が無理に魔法を使えば元々の魔力が少ないせいで魔力枯渇を起こして死ぬ事になる。 なので充分な魔力量を持たぬ(と思われる)下賎な者達には魔法を教えない。 そんな感じの理屈…。 日本のサブカルだと 「転生者は魔力枯渇するまで魔力を使えば回復時に魔力の総量が増える」 という仕様になっていたが… この世界での魔力枯渇事情は転生者に対してどうなのか… 今の時点ではちょっとよく分からない。 何せ前世の記憶を取り戻したのが数時間前なのだから…。 サブカル異世界基準では 「トイレが水洗→御都合主義恋愛ゲーム世界」 「諸々不衛生→冒険RPG風世界」 という傾向が強かった。 この世界はトイレは肥溜め式だし諸々不衛生。 「乙女ゲームとかの御都合主義恋愛ゲーム世界(!)」 ではないだろうと思われる…。 (…この世界と似たような世界観の作品が何か無かったかな…) と思い返してみても、ちょっと思い浮かばない…。 なので誰かの創作作品の世界という訳ではなく、ただ単に存在している異世界だという可能性が高い。 それはつまり ゲームのようなシナリオがある訳でもなく 神に授けられし使命がある訳でもない。 「本物の人生と同じ世界だ」 という事。 ーーそう思ってしまうと (…環境の産物としてただ生きて、環境の産物としてただ死んだ。…そんな惨めな人生をここでも繰り返さすのか…) と、不意に精神的疲労が起きた。 (日本で生きてた頃の人生の延長?なのかな…) と思ったら、しみじみとウンザリするのだ。 だが 「前世の記憶を取り戻した事によるメリット」 が無いとも限らない。 サブカルで培った魔法関連のイメージや仕様情報。 使えるかどうか不明だが… (…とりあえず試してみるか…) と思いつつ 「ステータスオープン」 と言ってみた。 異世界行くと誰もが試す定番呪文(苦笑)。 もはやお約束である。 ーーブゥンという蜂の羽音のような音。 そんな妙な音と共に 半透明のボードが空中に浮かぶ上がった。 文字は完全にこちらの文字。 「読み書きができないと自分自身のステータスさえ確認できない」 という事なのか…。 地球以外の世界もなかなか世知辛い。 ーーというか、そもそも 「現在状態顕現(ステータスオープン)」 はカタカナ英語だ…。 この世界の言葉で似たような指示を出すなら 「アフィラタスミリンクス」 という発音になる筈。 この国を含むこの世界の公用語は旧帝国時代に使用されていた古語から発展した言語。 自国の口語とよく似た公用語を覚えれば、どの国に行っても対話が成立する。 一般人が覚えるべき言語学習内容はそこまで多くないので「詰め込み」は必要ない。 それでいてーー この世界の魔法の呪文は、今は国を(自治区を)持たない彷徨える民族アードラー族の言語だ。 「魔法を使うにはアードラー語を覚える必要がある」 と漠然と噂話のように囁かれてはいる。 それこそ日本にとって英語は公用語ではないものの 「カタカナ英語」 と形を変えて身近な言語になっていたように… この国や近隣国にとってアードラー語は 「公用語ではないものの身近な言語」 ではある。 この世界で何故カタカナ英語の呪文が(どうやら)有効なのか… 本当の所は分からない。 考えても分からない疑問については深く考えたら負けな気がする…。 ともかくアードラー語を知らない私がカタカナ英語を唱えて それでステータス画面が出てきたのはカラクリとしては謎ではあるが 基本的に 「日常で使われる言葉は呪文に向かない」 という話は聞いた事がある。 日常脳と非日常脳とで異なる言語を使うようにしないと 日常の生活に掌握・制御しきれない魔法の力が具現化して ポルターガイストさながらの厄介な超常現象を発生させてしまうのだとか。 それを潜在的に忌避して、潜在意識が呪文と魔法現象との関連を阻害・切断してしまうのだという…。 そんな理屈。 「意味は理解できるが日常の生活で使う事のない言葉」 「意味は理解できるが日常の生活で使う事のないジェスチャー」 そういった日常的じゃない言語こそが呪文や呪印として適合しやすいらしい。 (前世のサブカル情報がソースだが) そんな呪文適性言語に 「元日本人のカタカナ英語」 は丁度マッチしたという事なのかも知れない。 ともかく魔法発動の呪文はカタカナ英語でOKなのに、ステータス画面の表示や説明文はこちらの世界の言語、という不可解な現実に無理矢理説明をつけて納得してみる…。 ペトロネラ・ローゼンハイム 種族:ヒト族 年:15 等級:1 生命力:15/15 体力:7/8 魔力:16/16 敏捷度:8 器用度:12 攻撃力:8 防御力:10 知能:18 精神力:24 魔法適性度:88 運:5 形而上経験値:20,508,075 形而下経験値:846 そう書かれた表示を見ながら (自己確認はできたな…) と多少は安心した。 ただ、自分自身に関する情報はこうやって数値化されたものを目にできてゲーム仕様な世界に多少安心できたとは言え… 「異世界あるあるネタ」をまだ試し尽くしたとは言えない。 異世界チートの定番として 鑑定やら亜空間収納やらは外せないだろう。 なので 「鑑定(アプレイザル)」 とカタカナ英語で唱えながら自室のベッドを見てみるとーー やはりブゥンという羽音と共に 「樫材のベッド」 と表示が出た。 ベッドに刻まれた達筆の銘の方を見やると… 読めない筈のカリグラフィー文字が 「シャハト・レージンガー作」 と日常文に翻訳されて出た。 (おおっ!鑑定できた!) と思わず興奮した。 (こうなったら、やはりアレも試さないと!) と興奮しながらも多少は冷静に (無くなっても良い不用品は無いかな?) と室内を見まわした。 すると掃除など久しくされてない床に蜘蛛の死骸らしきものが落ちていたのを発見した。 よく見かけるその辺の蜘蛛。 鑑定すると 「蠅取蜘蛛(ハサリウス)」 と出た。 「小蝿やダニを食べる益虫」 とあるので毒は無さそうだ。 そっと触れながら 「収納(ストレージ)」 と唱えると、望み通り蜘蛛の死骸は跡形もなく消え去った。 「…取出(テイクアウト)」 と唱えると 「収納庫一覧」 を示す半透明画面が浮かび上がり 「蜘蛛の死骸×1」 という収納項目が出たので思わずそこをタッチ。 ちゃんと取り出せた。 「取り出し呪文+タッチパネル操作」 が手順として必要になるという事らしい。 「…この程度でも、今まで魔法を全く使えなかったんだから相当便利だよね…」 と自分でも自分の異世界チートを実感した。 やはりこの世界ではまだまだ絶望はせずに済みそうだ…。
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