万能薬

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万能薬

cdc12c16-b14d-4776-887e-11c0e7fdb24b 「『聖水』は商品になるか?」 という疑問に関する答えとしては 「教会の特権を業務妨害する事になる」 ので無理のようだった。 だけど 「『聖水』とは言わず『魔力水』と言えば商品化は可能」 だとのこと。 「ともかく試させてもらいたいんで、出来るだけ多くサンプルが欲しい」 と言われたので 「どうぞ」 と魔石を手渡そうとして差し出したところ 「「「「「「「………」」」」」」」 何故かーー 皆が沈黙して思い悩んでいるように見える…。 ディートリヒは勿論、ゲラルトもラインハルトもヒルデブレヒトも エッカルトもベルノルトも、執事のトーマスまでもが (((((((まさか…))))))) といった様子で恐る恐る魔石を覗き込んできた…。 「…えっと…。私、何かしましたでしょうか?」 「…う、う〜ん。…ウチの奥さんは…一体何のつもりで魔石を出したのかな?」 とディートリヒが質問したので 「『聖水』をこの魔石に収納してるんで、『どうぞ』と渡そうとしました」 と答えてあげたら 「ペティー…。『普通は魔石に物を収納したりできない』のは知ってるんだよな?」 とツッコミを入れられた…。 「え?でも。『便利だろうな』とか思って魔石に収納魔法を付与したら出来ちゃったんで、ちゃんと有効活用しないともったいないと思って」 と私見を述べると 「…多分、『魔力水』よりも、『収納魔法』が付与されたこの魔石の方が高値で売れると思う」 と言われた。 「「「「「「「………」」」」」」」 再び沈黙が流れた後でゲラルトが気を取り直したように 「ーーお前は『聖水』よりも『万能薬(アルハイルミッテル)』を創る気はないのか?」 と尋ねてきたので 「…万能薬(アルハイルミッテル)ですか?それって、つまりは怪我にも病気にも解毒にも効く薬の事ですよね?」 「そうだ」 「それってお金になるんでしょうか?」 「そうだなぁ…。社会が安定してる時代なら莫大な金になるだろうが、そうでなければ拉致監禁搾取の危険を招くだろうな…」 「…それって創る意味があるんでしょうか?単に不幸になるだけでは?」 「不幸になるかどうかは分からないが、来るべき悲劇に対して最も有効な対策になる」 「万能薬がですか?」 思わず首を傾げてしまう。 この世界ーー 魔法はあるものの、戦闘現場に治癒魔法使いを連れて回れるほどには、治癒魔法使いの絶対数が足りてない。 なのでゲームとかに登場するポーションに類似する速効性内服薬を持ち歩く事になるが… 怪我にしか効かないとか、毒の種類に合わせた解毒成分が必要だとかで、複数の種類を沢山持ち歩かなければならない。 万能薬は 「これ一本あればどんな怪我でも病気でも毒状態でも治療できる」 という優れ物。 材料費にどれだけの金額が掛かるかは不明だが… お金持ちは確実に「欲しい」と思う品ではあるのだろう。 「基本的に『聖水』にせよ、『万能薬(アルハイルミッテル)』にせよ、普通に保存しておけば劣化する。 大量に作っても保存がネックになるので緊急にそれが必要な者にしか需要はない。 それでも瀕死の金持ちは何処にでもいるからな。オークションに出せば相当な金額で売れると思う。 魔石に込められた治癒魔法を使うには『魔石内の魔力を吸い出す』事が必要になるが、『聖水』や『万能薬(アルハイルミッテル)』の良いところは『誰でも使える』という点だ。 時間経過のない魔法収納庫に保存する事で経年劣化の問題さえクリア出来るなら数年後に備えて今のうちから創り溜めできる」 そう言われ (なるほど) と思った。 収納魔法を付与した魔石に『万能薬(アルハイルミッテル)』を創り溜めして保存しておけば、中のものを取り出せる人が一人でも居れば、中の『万能薬(アルハイルミッテル)』は誰でも使える。 スタンピードで大量の怪我人 死病で大量の病人が出ても 動ける人が『万能薬(アルハイルミッテル)』を怪我人・病人に与えていけば良いのだから、治癒魔法使いがひたすら怪我人・病人を診て回る必要がなくなるんだ…。 「お前の治癒魔法のクオリティーは異常に高い。大量の怪我人や病人が出た時にそれが知られてしまえば、大勢の人間が『能力ある治癒魔法使いは自分自身の休息を後回しにして自己犠牲的に皆を助けるのが当たり前』だのという搾取的依存心を押し付けてくる可能性が高い。 そうなった時に、到底一人では患者をさばけないだろう? 基本的に大衆は扇動や集団ヒステリーに弱い。簡単に『誰かに犠牲を強いる心理』に傾倒して突っ走る。 そんな連中は物の道理を説いても理解も納得もしない。言葉の通じない強盗のようなものだ。 ちゃんと備えておかないと、人間全部が嫌いになるくらい他人の身勝手さに傷付けられる事になってしまう」 「そうですね…。確かに備えは必要かも知れませんね」 『万能薬(アルハイルミッテル)』に関係しそうな素材とかを鑑定して、重複鑑定で情報を広げていけば、創り方とか、全ての材料とかが表示されてるページが開けるのかも知れないし… (本気で創ろうと思えば出来るのかも知れないな…) 何せ私は随分とレベルが上がった。 ディートリヒと結婚した事でもレベルが上がり 欠損奴隷を修復し出してから更に上がった。 「好かれる」 「感謝される」 という事が 「レベルアップの鍵だ」 と思った私の予想は当たってたのだと思う。 ステータスを見ればーー ペトロネラ・ブライテンバッハ 種族:ヒト族 (職能:魔法使い) 年:16 等級:10 生命力:16/48 体力:18/18 魔力:55/55 敏捷度:15 器用度:24 攻撃力:15 防御力:15 知力:28 精神力:32 魔法適性度:99 運:14 形而上経験値: 10,002,453 形而下経験値: 10,507,963 習得能力(スキル):鑑定 亜空間収納 魔力操作 付与 称号:異世界転生者 使用可能魔法:光属性魔法2、水属性魔法1、火属性魔法1、風属性魔法1、土属性魔法1、闇属性魔法2、氷属性魔法1、雷属性魔法1、聖属性魔法5 と表示される。 レベル10は定職に就いてて社会内で必要とされている大人のオジサン達オバサン達の平均。 定職に就いてない学生だと高くてもレベル7とか8。 私は学生じゃないからレベル10でも変ではないけど、学園に入学する前まではレベル1だったのだ。 一年数ヶ月ですごい勢いでレベルが上がったのだと言える。 聖属性魔法の習熟度が5になってるし それくらい欠損奴隷を修復する事が魔法の鍛錬になっている。 「暇さえあれば『万能薬(アルハイルミッテル)』を創って魔石収納庫に保存」 みたいな事をし続けるのでも、更に聖属性魔法の習熟度が上がると思う。 一向に攻撃魔法を訓練する機会には一切恵まれないのだけど 一応 「結界生成(メイクアバリアー)」 は練習し続けている。 正直言って、私は 「困ってる皆様を助けたい」 みたいな自己犠牲を厭わない善意は全く持ってない。 寧ろ 「助けるのが当たり前だ」 とばかりにコチラを蝕もうとする人達に罪を犯させないためにも 「助ける力なんてありません、というフリ」 をしてたいくらいだ。 でもーー 『万能薬(アルハイルミッテル)』は創ろう。 自己保身のためにーー。 「出来ることはちゃんとやってます、ちゃんとやりました」 と言い切れるだけの社会奉仕は確かに必要なのだと思う。 それが 「藁にもすがる思いで他人の善意を搾取して自己犠牲を強いるヒステリー集団」 に対峙して 「共に生き残る」 ための最善の対策なのだろうから…。 そう思うからーー 私はゲラルトを真っ直ぐに見詰めて 「…創ります。万能薬(アルハイルミッテル)を」 と宣言したーー。
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