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自分に出来る対策
ディートフリートがーーリラがーー産まれてからは私は奴隷商ギルドのギルド会館まで足を運ぶ事は無くなった。
何せ授乳をする時はオッパイを出して呑ませる事になるので家の外で授乳する訳にはいかない。
遠出は出来ない。
なので基本的に自宅で過ごしている。
壊れた魔道具の修復・複製
魔石に魔法を込める
魔力水・万能薬の量産
それらをこなしながら、授乳時間と授乳時間との合間を縫って商品出荷待機所まで出向き、欠損奴隷の治療・洗脳及び鑑定をしてる。
ディートリヒと助手のアウレールで欠損奴隷の仕入れもしてくれてるので、私は狭い行動範囲の中でも自分の仕事をこなせてる。
(女は出産と育児があるから、周りのサポートが無いと「役立たず」の位置へと押し流されやすいんだよね…)
と、世の傾向を思い、自分が恵まれた環境で仕事ができる事に思わず感謝してしまう。
この所、外国人犯罪者が増えてるらしく
「戦争奴隷」という名目の「外国人の犯罪奴隷」の総数が増えてる。
なので「戦争奴隷」のうちの欠損奴隷の数も総数の増加に伴い増えている。
借金奴隷の場合だと四肢欠損は事故やら虐待によるものなのに
犯罪奴隷や戦争奴隷だと犯罪行為の最中の戦闘行為もしくは捕縛された際の戦闘行為で負った怪我が殆どだ。
「治してあげたいという気持ちが湧かない」
人達だと思いそうになるけど…
犯罪奴隷・戦争奴隷の場合は
「洗脳して人間性改造する」
のが前提。
「強制的に更生させる」
という負目がこちらにも生じる以上、やっぱり治療は必要だと思う。
「欠損を治療してあげるくらいの恩を売っているから」
(押し売りですが?何か?)
「当人の意志を無視して洗脳して更生強制する権利」
も生じてるのだと言える。
逆に言うなら
「欠損を治療してあげるくらいの恩」
が無い相手には
(たとえ当人のためになる社会適応推進の更生目的でも)
「洗脳などしてはいけない」
と思う。
ある意味で
「堕ち過ぎた者達への洗脳更生の強制執行」
は
「私なりに運命を改竄する」
挑戦でもある。
「自分の出来る事を頑張って悲劇を回避もしくは軽減する」
という足掻き。
「宿主が寄生虫を排除する」
のと
「寄生虫が宿主を排除する」
のとを味噌糞一緒に混同視する寄生虫根性。
そういうのを刷り込んで社会不適応者や異邦人を反社会性へ釣って組織犯罪・ヘイトクライムに走らせるアードラー側の精神干渉を、少しでも削げる筈…。
授乳期間中は欠損奴隷の仕入れが人任せで、しかも私自身が忙しくて大勢を治療・洗脳出来ないという制限もあるので…
「対アードラー対策」としては不完全ではあるけど
私は自分の個人的家庭生活を犠牲にしてまで世間の皆様へ貢献する気はない。
一番大事なのは自分と家族。
自分と家族が幸せに暮らすのに平和で公平な社会が必要だから
その為に社会方針する。
世間の皆様にも降りかかる未来の悲劇を
回避もしくは軽減する対策として
「反社会的扇動の目を少しずつ積む」
ようにしている。
優先順位を間違えてはいけない。
自分と家族の幸せを犠牲にして世間の皆様の為に社会奉仕した挙句
その世間様に
「悪者認定されて袋叩き」
になどされたら、恨みしか残らない気がする。
利他的になればなるほど
「報われなかった時の反動で自分自身が怨霊化してしまう」
のだとしたら…
絶対に優先順位を間違うべきではない。
*******************
育児と仕事に追われながら日々が過ぎてーー
いよいよ
「同時多発スタンピードが起こる年」
がやってきてしまった。
ゲラルトも従者二人も学園を卒業している。
ゲラルトは婚約者だった歳上令嬢と婚約破棄している。
ゲラルトの婚約者だったがアイベンシュッツ侯爵令嬢が
「王子妃を害そうと陰謀を企てた」
事が明るみに出て断罪され…
実質女囚刑務所と言われる特殊女子修道院へ収監された。
アイベンシュッツ侯爵自身も
「国家転覆罪」
が疑われ、幽閉塔へ監禁されて取り調べにあっているとか。
ゲラルトの婚約者はブライトナー公爵派のブライトクロイツ子爵家令嬢に決まったとの事。
大人し目の歳下令嬢で、アイベンシュッツ侯爵令嬢とは真逆のタイプだとか。
「ゲラルトには、ああいうお人形タイプの大人しい令嬢が似合ってると言えば似合ってる」
とディートリヒが満足そう。
元々は私をゲラルトの愛人ポジションにしたがってたクセに随分とゲンキンな旦那様だと思う。
ゲラルトの従者兼護衛だったエッカルトとベルノルトは騎士団に入団。
見習いとして健闘中。
ヒルデブレヒトとラインハルトは正騎士となっている。
本来ならブライトナー公爵領の北の砦で御礼奉公中となる運びだが使い魔を使った王都内監視の任務がある為、砦勤務は免除されている。
そうした砦勤務免除はエッカルトとベルノルトにも適用される事が決まってるので、小説の内容にある「北の砦勤務にペトロネラを連れて行くために拉致監禁」は成立しない。
それもまたブライトナー公爵による配慮なのだそうだ。
「そろそろオッパイは卒業させて離乳食をあげるようにしたいんだけど、良いかな?乳母を雇えば私も本腰を入れて仕事に復帰できるし」
と私がディートリヒに社会復帰を提案すると
「えっ?二人目欲しくない?俺との愛の結晶をたった一人で終わらせる気か?」
と涙目になられた…。
「そんなに子供を何人も欲しいの?」
と不思議に思って首を傾げると
執事のトーマスが
「坊っちゃまーーいえ、ご主人様は、奥様を社会的に活躍させたくないんですよ。
『名が知られる』『存在を認知される』という事が有事の際に矢面に立たされる事にも繋がりますし、人妻に対して良からぬ欲望を抱く輩もおりますし。
奥様に対して過保護になると、どうしても社会的活躍を制限したくなるんでしょうね」
と微笑ましいものを見る目をディートリヒに向けた。
「…実は私も『欠損奴隷の欠損を修復して奴隷の労働価値を引き上げてあげる奴隷商人兼治癒魔法使い』という位置付けでバリバリ仕事をこなす事で、私の名が知られていくに当たっては、少し思う所があるの…。
ジャンク品魔道具を修理してたらたまに『認識阻害』効果のある魔道具もあったりするでしょ?
それで『髪の色と瞳の色を若干変えてみたらどうだろう?』とか思ってたりするの。
異常な治癒魔法が知られて『ペトロネラ・ブライテンバッハの血筋』というものが勘繰られてレーゼル公爵家が出しゃばっても、色が違えば、世間はレーゼル公爵家側の主張に流されずに済むんじゃないかって気がするし、ディーはどう思う?」
そう尋ねるとディートリヒはハッとした表情になってから
「言われてみれば、そうだな。早速髪の色と瞳の色を変えてみてくれ」
と言い出した。
砂肌色のくすんだ金髪を微妙に黒ずませて薄茶色の髪へ
灰青色の瞳を微妙にくすませて灰褐色の瞳へと
色を変えてみるとーー
「…ウチの嫁が可愛い過ぎてツラい…」
とディートリヒが頬を染めた…。
私の髪色と髪質はアマーリエの髪を連想させるらしくて内心では
「別の髪色であってくれた方が良い」
と思っていた様子。
金髪だとパッと見、まつ毛や眉毛が無いように見える事もあるのに対し
薄茶色のまつ毛や眉毛だとハッキリ存在が主張されて
長いまつ毛が女性らしさを際立たせてくれるのだそうだ…。
「リラが違和感なく受け入れてくれるなら、家の中でも認識阻害魔道具を使って色を変えたままで居ようかと思うけど、どう?」
「いや、それは、リラの意見はこの際却下して、家の中でもその色で居てくれ。家と外とで使い分けてたら、客人や使用人からの情報漏洩で本当の色がバレる確率も高くなる。
基本的に髪の色は年齢の経過で濃くなったり薄くなったりしても不思議はないものだ。
子供の頃に金髪だった子が暗褐色の髪になる事もあるし、ペティーの髪色が出産後の引きこもりを経て薄茶色に変わってても誰もが変に勘ぐりはしないだろう」
との事。
なのでディートフリードに(リラに)違和感与えまくりのまま
「ママでちゅよ〜」
と言ってみた所
(はて?)
といった様子で不審がられてしまった…。
![3eef5db5-0794-4572-b36d-f2047603df2d](https://img.estar.jp/public/user_upload/3eef5db5-0794-4572-b36d-f2047603df2d.jpeg?width=800&format=jpg)
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