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裕翔があの子の事を好きだって知ったのは、それを彼の口から聞くよりも前の事だった。 入学して数日が経ち、私たちは同じ中学から一緒に進学できた腐れ縁仲間数人で学校見学ツアーをしていた。 「この学校広すぎ!全然なれないよね!めっちゃ疲れた~」 ほとんどの教室を回り終えたころ、私たちは探検を終え、そろそろ帰ろうと自分たちの教室へ戻っていると、裕翔が特進科の教室の前で立ち止まり廊下の窓から何かを見つけたように見つめていたのを私だけが気付いた。 皆は教室へ戻ったけど、廊下には立ち止まった裕翔、そして、振り返りそれを見ている私だけとなった。 静かだった。 春風が廊下を抜けて彼の前髪が少し揺れた。裕翔があまりにも綺麗で、私は胸にしまい込んでいる気持ちを揺さぶられ見とれてしまった。 ”はっ”と我に返り、私は上履きをパタパタと音をさせながら裕翔の方へ駆け寄る。 「どした?」 少し声がおおきかったかな?廊下にその声が響いたから裕翔は慌ててこちらを向いて人差し指で口元を抑えるしぐさをし 「しーっ」 と、私を黙らせた。 まるで小さな子が宝物でも発見したかのような無邪気な顔に少し”ドキッ”と胸を締め付けられる。 そしてまた、裕翔が教室の方へ目をやるから、私も視線を追う様にそちらを見た。 そこには、広げたノートやテキストの上で無防備に眠っている女の子がいた。 伸ばした左腕の先には、眠る前まで読んでいただろう本か?ノートか?がポトリと落ちていて、曲げた状態の右腕に顎を乗せてスースー眠っていた。 裕翔・・・あれを見ていたの?あんなに優しい顔で・・・。 胸の中がザワザワした。 今まで横で見ていた。 何度となく告白されたり、彼が誰かのものになっていく姿を・・・でも今みたいな気持ちにはならなかった。 私は友達としてでいい!彼の一番近くの女になる!!そう決めてから気持ちを隠していた。裕翔への思いが知られてしまうと、その関係は失われてしまう。今までに通り過ぎて行った女たちと一緒のポジションに成り下がりたくなかった。だから、私は鍵をかけた。 だから、何人もの女の子が彼に告っても、それで交際に発展しても、その子たちから恋愛相談されても・・・何も感じなかったし、嫉妬もなかった。 だって、誰よりも私が一番近くにいたから。 だけど何だろう? 嫉妬心が芽生えた。 その瞬間、気が付いた。 ”裕翔はこの子に恋をしている” って、あの日の裕翔はまだそれには気が付いていなかったよね。 ただ愛おし気な表情で、あの子の寝顔を見つめて、クスクスッって笑って、 「めっちゃ疲れてんだろうね。あんな風に爆睡してる女の子って初めて見た」 なんて、言いながらこっそり写真撮ったりしてさ・・・。 ちょっと酷くない?だってさ、裕翔自身が気が付く前に、私の方が気が付くくらい一瞬で恋するなんて・・・それを見せつけるなんてさ。 メンタル崩壊、あの日から私は、すぐそばで日々彼女に心を奪われていく裕翔を見つめています。一生気が付かないだろうけど!
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