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 ――めいっぱい可愛い格好してみたいし、イケメンにエスコートされて劇場行ったり舞踏会に行ったりしてみたい……! (ジーナ、どこに行ったんだろう。聖女の魔力が尽きちゃったの? それとも、神様に見つかって連れ戻されたの? 厳しい上層部にたっぷり絞られて? これからが本番なのに。私ひとりで味わうのはもったいないよ、ジーナ)  ミケランジェロにエスコートされて侯爵夫人の店を出て、ティールーム・トワイライトへと向かった。  途中、どこかの店の小間使いらしき少女が、荷物を持ったまま盛大に転ぶ現場に遭遇。  イリナが「あっ」と言う間もなく、ミケランジェロが駆け寄り、落とした物を拾い上げて少女に手渡していた。  横を、素知らぬ顔をした男女が通り過ぎて行く。  明らかに身なりの良いミケランジェロの親切に、少女は動揺したように頬を染めていた。ミケランジェロは、「痛いところは? 大丈夫?」と穏やかに話しかけている。駆けつけたイリナが手を出す間もなくすべてが滞りなく終わり、少女はぺこぺこと何度も頭を下げて、去っていった。 「君を置いて急に走ってごめん」 「いえ。私も走ろうとしたんです。追いつけませんでしたが。そういえば、補佐はいつも仕事でもそうでしたね。困っているひとがいるとさりげなく助けてくれて。私は、補佐は仕事ができるひとだから、その余力で他人も助けてくれるんだと思っていましたが……」 「どうも。君に、仕事ができると思われていたとは、光栄だ。嬉しいよ」  特に嫌味なところもなく、微笑んでそう言われて、イリナの胸の底がじんわりと熱を帯びた。 (余力があっても、他人のために一秒だって時間を使わないひとは実際にたくさんいる。使うか使わないかを決めているのは、この方の性格なのだわ)  綺麗な服を着て、隣にいつもと違った装いのミケランジェロがいて。  どこか浮ついて、落ち着きをなくしていたイリナの気持ちがすとん、と収まるべきところに収まる感覚があった。 (ジーナ、つまり、こういうことよね?)  心の中で呼びかけても、反応はなし。  こんなときこそ、二人で話したかったのに。  あれほど賑やかだったジーナは、もう戻ってこないのだろうか。  * * *  
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