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待合所から出てくる人の姿に、春海が時間を確認する。せめて時間がわかるものくらい持っていけ、と父親に腕時計を押しつけられたらしい。
その気持ちはものすごくよくわかったし、安心もしたので、次におじさんと顔を合わせたときは、五割増しで愛想を良くしておこうと決めている。
「ほな、そろそろ、俺、行くな」
「うん」
ロータリーに東京に向かう高速バスが入ってくるのが見えた。
ここから九時間弱。それだけの距離を離れていくのだと思うとどうしたって寂しいけれど、二年半前とは違い、どこかすっきりとした心地だった。
「はる」
ひとり歩き出した背中を、最後にもう一度呼び止める。振り返った優しい瞳に、暎も笑って手を振った。
「またな」
それは、明日もすぐに会うことができると信じて疑ってもいなかった、幼かったころと同じ別れ際の台詞だった。
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