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局地的な雨が降り止むと、空には再び夏らしい青が広がった。「ここまで来たんやし、観光でもして帰る?」と言い出したのは意外にも春海のほうで、否のなかった暎は車を北に走らせた。
道の駅で若い女の子たちと出会ったとき、「こんなに田舎に観光とか物好きやな」と思っていたのだが、最近はなにやら一部が映えスポットになっているらしい。若い女の子がよく来るという話を聞いて、素直に暎は驚いた。
観光課がんばっとるんやろなぁ、というしみじみとした暎の呟きを、職業病や、と春海は笑っていたけれど、スマートフォンもだが、財布も持ってきていないとあっけらかんと告白した春海も大概だと思う。煙草どころの話ではないし、そんなもの、絶対にはぐれることはできないではないか。
「まぁ、でも、しゃあないかなぁ、とも思っとるんよね、ほんま」
店を出たあたりで、本当にふとといったふうに、春海はそう切り出した。しょうがないという言いように、軽く声が尖る。本当に、そういうところはあいかわらずだ。
「しゃあないって、なにがよ」
「んー……、ぜんぶ?」
日陰を選んでゆっくりと歩きながら、数えるように春海が指を折る。
「そもそもで言えば、べつにそこまで好きでもなかったのに、まぁ、ええかなぁ、で受けた俺が悪かったんやろし」
「……」
「そんなふうに始めたのに、スマートに終わらせられへんかったんもあかんかったんやろな、と思うし」
いや、そこは、でも、お互いさまなんとちがうん、という気はしたものの、暎は頷くに留めた。顔も知らない相手を声高に批判することもどうかと思ったからだ。
「それで、まぁ、振られたほうが、周りに愚痴言いたぁなっても、しゃあないやん」
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