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空気を取り繕うようにとりとめもないことを話しながら通りを巡って、どちらからともなく駐車場に戻ろうかという結論になった。
その道すがら、言い忘れていたというふうに春海がひとつ言い足した。
「でも、あれやで。それだけやってん、べつに」
「それだけって……」
「多少はたいしたことあったかもしれんけど、そんなに心配されるほどたいしたことではないってこと」
「はる」
「いや、だって、しゃあないやんか。その子が言うてもうたことはどうにもならんし。おまえもホモやったんかいって言われても、いや、こんな言い方はされてへんけど、まぁ、ともかくデマでもなんでもないわけやで」
やっぱりしゃあないやんか、と笑う横顔は、本当に本心でそう思っているみたいだった。もう一度呼びかける代わりに、車に乗り込む。続けて助手席に乗り込んだ春海が、車内に籠った熱に素直に顔をしかめた。
「めっちゃ暑いな」
「おまえ、こっち帰ってきてからそればっかりやな」
「いや、やって、暑いもん。じめじめしとるし、そもそも、あほみたいに温度高いし」
「そういうとこやねん。諦めぇよ。昔からやろ」
年々酷くなっている気もするけれど。エアコンが効くまで我慢しろとばかりに窓を開けて、発進させる。帰りも、行きと同じ海沿いの一本道だ。潮のにおいをはらんだ生温かい風が、開けた窓から吹き込んでくる。その風で髪をはためかせながら、春海が苦笑をこぼした。
「ほんまやで。暑いんも嫌やし、湿気すごいんもほんま嫌やし、海のなにがええんかもわからへんし」
「いや、悪口ばっかやな」
「それやのに、嫌いになりきらへんから、困んねん」
心底ままらないというふうに笑うので、返す言葉を止める。そういえば、祭りの夜にも似たことを言っていたな、と思った。
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