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「あれ、小さいころ、友達ぜんぜんおらんかった弊害やで。あきちゃんおってよかったわぁ」 「そんなことないやろ。……いや、俺がどうのやなくて、冬海さんのほうな。というか、そんなあれなん?」  問いかけているうちに、なんだか本当に少し心配になってきてしまった。自分の中に残る彼女のイメージと、今の彼女のイメージが違いすぎる。 「いや、べつに、変ななんかにはまったとかやないし、あれやねんけど。こう……なんて言うたらええんやろな。えらい善人のほうに舵振り切ってしもたみたいで。悪い人なんていないわ、みたいな」  あきちゃんもやけど、勝己くんも見たらびっくりするやろなぁ、とおかしそうに言う。それは、まぁ、兄は自分以上に驚く気はするけれど。迷った末に、変哲のない返事を暎は選んだ。 「平和そうやな」 「ほんまやで。ええねんけどな。俺もそない争いたいわけやないし」 「はるは、そうやな」 「せやよ。僕、そんなひどいことしてないよねって電話で言われたときも、そうやんね、で終わらせたからな。ふつうの顔して行ったらなしゃあない」 「……いや、そこは怒ってええんとちがうか」 「嫌やわ」  面倒やもん、いちいち怒るん、といかにもなことを言って、でも、と春海が続ける。静かな声だった。 「まぁ、帰るし、帰ったら、ちゃんとするよ」  そと窺った横顔は穏やかで、だから、暎は過剰なことは言わなかった。笑って、あんまり無理せんときや、とだけ告げる。 「大丈夫」  あまりにもな平らかさに、思わずもう一度視線を向けた。本当にわかっているのだろうかという疑いが芽吹いたからだ。目が合った春海がにこりとほほえむ。 「だって、あきちゃん、東京まででも来てくれるんやろ?」  気負いもなにもない笑顔に、苦笑がこぼれる。気恥ずかしくて、うれしくて、ほんの少しだけ重い。無条件の信頼とは、こういうものなのだろうか。  もしかすると、もっと昔から、自分は春海のことが好きだったのかもしれない。春海の隣だったら安心することができると盲信していたころから、ずっと。前を向いて、頷く。 「行ったるよ」  望んでくれるのであれば、どこへでも。三年前にそう言ってやることができれば、きっとよかったのだろうけれど。 「帰ろか」  そう続けた暎に、せやな、と春海が笑った。 「帰ろな、一緒に」
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