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パソコンの画面にはマシンガンを持ったキャラクターが走り敵をどんどん倒している。そんな様子を少女の肩越しに眺めつつ大きな溜め息をついた。
「天狐様」
「んん?ああ、沙也か。ちょっと今いいところなのだ。ここをこうして、ああして、よっと」
画面にミッションクリアの画面が出るとガッツポーズを作り満足そうにしている。その姿は天界にいた頃のような威厳は微塵もなかった。デフォルメされたアニメキャラクターが描かれたシャツに短パンスタイルというすっかり現代のオタクスタイルに染まってしまっている。
「どうだ!わらわもなかなかに上達したのだ」
誇らしげに胸を張るこの少女にどうも怒る気になれない。
「で、何の用なのだ」
「で、何の用なのだ?じゃないですよ。もう十分信者も得て、力も回復したのに、どうして天界に戻らないのですか?」
結果私の考案したSNS作戦は大成功を納めた。天狐様のチャンネル登録者数は私を越え、今や日本のトップランカーと肩を並べるほどになってしまったのだ。神としての力はもちろんなのだが莫大な資産まで手にしてしまって……。
「何だそんなことか。そんな事何回も言っているではないか、ここが楽しいからなのだ。欲しい物は何でも買えるし、ほれこの油揚げも食べ放題なのだ」
そう言うとテーブルの横に積まれた油揚げから一つつまみ口の中に放り込み、再びゲームの世界に戻った。
どうしてこうなってしまったのだ。せめて一人暮らししてくれよ。どうして私の部屋に住み着いている。と叫びたかった。でもその答えは分かりきっていた。『お前たちはわらわの守護神なのだ。しっかり守護するように勤めるのだ』と言うのだ。
私は一階のリビングに行くと、そこではおじいちゃんと柴犬が仲良く並んでテレビを見ながら談笑している。
ばあばは人の姿に戻る事を拒否した。なぜならこの姿のままの方が鉄じいに可愛がってもらえるからだそうだ。
犬が喋るこの異常な光景に慣れつつある自分に不安を覚える。
それよりも問題は……。
私はキッチンで中睦まじく料理をするママとパパの姿を見て何とも言えない気持ちになる。
下界に戻ったママの年齢は天界に行ったときのままになっていた。つまりそう。私と同じ年齢のままなのだ。で、パパがそんなのママの姿にデレデレしているのだ。
ははは。良かったねパパ。
そうこうしていると晩御飯ができた。テーブルに次々と料理が並べられる。
「沙也皆を呼んできて」
ママに言われ私は皆に声をかけた。皆は直ぐにダイニングに集まった。皆席につくなり歓声の声をあげる。皆お母さんの料理が大好きなのだ。それは天狐様も例外ではない。尻尾を左右に激しくふり今か今かと待ちわびている様子だ。
皆が揃うとママが恵みに感謝を意味するお祈りを唱える。どうやらこれは天狐様に感謝するものらしい。当の本人は満足そうに頷いている。
お祈りを唱え終えると談笑混じりの食事が始まる。私は辺りを見回して微笑んだ。ずっと夢見ていた光景が今そこにある。想像していた形と少し違うけどこれはこれで何だか楽しかった。
そんなこんなで、何とも愉快でヘンテコな日常が続いていくのであった。
了
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