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学校をさぼったことなんてない僕だったけど、あまりの心配さに、足が自然と鳴守君の住むマンションへと向かっていた。
彼の家はとっくに後を付けて判明済みだ。
彼の両親は共働きで、毎日夜遅くまで帰ってこないことも。
だけど近くの薬局で冷却シートやスポーツドリンクや、レトルトのお粥を買い込んだ僕は、重たい袋を手に立ち尽くしていた。
一介のストーカーである僕には、チャイムを鳴らして家に入ることはできない。
なにしろ彼が病気だって知ったのも偶然だし、家の場所を知ったのもストーキング行為からだ。
オートロックは他の人と一緒にすり抜けて入れたけどこれ以上の侵入はさすがにいけない。
しょうがないから、彼は心配だけど家の前にお見舞いの品だけ置いていこう。
クラス一同、ってメモを挟んで置いておけば、不審に思われないかもしれない。
それが名案だと、乱雑にレシートの裏に書きなぐって。
それをそっとドアノブに引っかける。
顔を見れなかったのは心残りだけど、くるりと背を向けて帰ろうとして____僕はその場に固まった。
そこに立っていたのは。
腕を組んで、マンションの壁に寄り掛かるようにして、僕のことを見ていたのは。
きつい視線で僕を冷たく見据えてる、鳴守君だった。
「尊は病院だ。ここにはいねぇ」
彼はゆっくりと壁から背中を起こすと、低い声で呟く。
その声に僕の体はびくりと大きく跳ねた。
何で彼がここに。
病気だったのは、鳴守君じゃなくて……尊君?
たしかに電車で聞いたのは鹿島君ってことだけで、僕はそれだけですっかり鳴守君だと思い込んでしまっていた。
回れ右をして逃げたいけど、足が竦んで動けない。
それにエレベーターは鳴守君をすり抜けて通らないとたどり着けない。
「あ、あ、あの、」
口を開閉する僕に、鳴守君がゆっくり近づいてくる。
彼は僕の腕をがっちりと掴むと、片手で扉のカギを器用に開けた。
「入れよ」
そのままやや強引に玄関に引き込まれる。
バタンと扉が僕の後ろで閉まって、それに彼がカギをかける。
ドアガードまでご丁寧にかけると、狭い玄関で、体が触れるほど近い距離で見下ろされる。
握られた腕は放されないまま。
「なぁ、あんた。こんなの無駄だって分かってるんだろ?」
冷たく見える、鋭い目元。
きつそうに跳ねあがった眉毛。
不機嫌さを隠しもしない態度だけど、彼の口調は怖いながらも脅すような恐ろしさはない。
むしろ、どこか言葉少ない中に、子供に言い聞かせるような色さえ感じる。
だけど僕は、次に彼の口から出てきた言葉に、目を大きく見開いた。
「お前の気持ちは届かねぇよ。諦めろ」
気持ちが届かない。
諦めろ。
___それは、僕が、鳴守君が好きだって、気が付かれてる?
嘘だろうと顎を落とすけど、でもそうとしか思えなくて、震える声で恐る恐る尋ねる。
「あ、の、いつから、気づいて、……」
「あんたの気持ちに?それともストーカー行為に?」
やっぱり、彼が好きなストーカーだって知られていたんだ。
死にたい。
恥ずかしい。
助けてもらった恩も忘れて付きまとって、彼のプライベートを盗み見て。
最悪な変態だ。
誓ってゴミを漁ったり盗撮したりはしていないけど、それでも十分に犯罪者だ。
「ど、どっちも、です、」
「半年くらい前。……駅で、絡まれてただろ。そのすぐ後からだな」
それじゃあ、最初っからずっとバレていたってことだ。
僕の顔は羞恥に真っ赤に染まって、涙が滲む。
ごめんなさいとその場に土下座して謝ろうかと思うけど、掴まれた腕がそれもさせてくれない。
ただただ体を震わせている僕に、鳴守君はため息を噛み殺したような息を吐いた。
「お前がどれだけ思っても、付きまとっても、無駄なものは無駄だ」
「う、……」
「今までの彼女は全員巨乳だし、お前みたいな大人しそうなのじゃなくて、派手なのが好きだ」
派手なスタイルのいい美人が彼の横に寄り添うのを想像して、お似合いだと納得する。
僕みたいに地味で暗い男、友人としてすら釣り合わない。
「学校でもまぁまぁモテてて、最近も告白されてたな」
それはそうだろう。
鳴守君はどこに居ても輝く雷神のように格好良くて、彼女だって選びたい放題だ。
好きになってほしいなんて分不相応に思ったわけじゃない。
だけど、それを本人の口から言われて__お前なんて相手にならないと本人から説かれて、胸がつまった。
ストーカーするような奴と話してくれるだけでも親切なのかもしれないけど、それでも心が痛い。
彼が重ねる言葉が、飛び散った恋の破片を踏みにじっていく。
俯いて滲む視界に鼻を啜る。
「人望もあるし、友達も多い」
「……は、い。分かってます、」
「意外とスポーツだってできるし」
「はい……」
「成績も優秀だから親も期待してる」
「知ってま、……って、ん?」
成績優秀?
鳴守君はたしかに、地頭はとってもいいんだろう。
サボりながらも上手いこと補習にならないように勉強をこなしている。
でも成績優秀とは言い難いはずで……。
彼が、自分のことを優秀だって言うなら否定しないけど。
でもそんな風に自慢するタイプじゃないと思っていたから、思わず視線を上げると。
「だから、諦めろよ。あいつは、尊はお前を好きにならない」
……尊、君?
なんで尊君の名前が。
だけど、辛そうに瞳を眇める彼と目が合ってそれを尋ねることもできずにいると。
その大きな掌が、僕の頬に沿わされた。
腕をきつく握られたまま引き寄せられて___顎を上向けさせられ、唇が触れ合った。
「っ……!」
唇の柔らかい感触。
それから頬に触れる熱い手。
密着した体。
驚きに固まっていると、唇をそっと食まれる。
そのままぬめった舌に舐め上げられ、口を開かされて、咥内へ舌が入り込んでくる。
舌を擦り合わされて、飲み切れない唾液が顎を伝う。
ようやく口づけが解かれた時には、すっかり息が上がっていた。
「な、なん……で、」
「俺と尊、顔だけはそっくりだろ」
そのまま、また口を塞がれる。
乱暴に粘膜を擦り上げられて、反射的に顔を背けようとする。
だけどそれが気に障ったのか、腰を掴まれ持ち上げられて、部屋の中へと連れて行かれた。
「だから__俺でもいいだろう」
「う……、わ!」
降ろされたベッドは、鳴守君のだろうか。
高校生とは思えないほど、物が少ないシンプルな部屋。
目を白黒させる僕の上に、鳴守君がのしかかってくる。
身長が高くて体格のいい彼に体重をかけて乗り上げられては、僕は身動きすらとれない。
それでも手首を片手でまとめて掴まれ、ベッドに抑えつけられる。
乱暴に前をはだけさせられて、シャツのボタンがいくつかはじけ飛び床に転がる。
「ひっ!」
「おとなしくしてろ」
小さく悲鳴を上げると彼は小さく舌打ちして再び唇に噛みついてきた。
熱い口腔に舌が潜り込んできて、唾液を啜られ舌を吸われる。
口の中も性感帯なのだと教え込まれるように嬲られて、背筋が震えた。
「ふ……ぅ、ん、」
唇を離されたころには、僕の体からはすっかり力が抜けてしまっていた。
拘束されていた手首を解かれても、ベッドから身を起こすこともできない。
「こんなにすぐ蕩けて、尊とヤるきだったのかよ?あいつ、結構サドっ気強いから滅茶苦茶にされてたぞ」
耳殻に舌を這わせながら、彼が息を吹き込むようにして囁く。
そのまま首筋にちゅ、と音を立てて吸い付かれ、はだけた素肌を舐められる。
汗ばむ胸元をなぜか撫でられている、と思ったら、急に胸の突起を指先で摘ままれた。
「ひぁ!」
じん、と痺れるような痛みが襲う。
膨らみもなにもないそこを弄っても楽しくないと思うのに、彼はそこを器用に指先で嬲る。
そして指で苛められていない方の乳首に、舌を這わされた。
ぺちゃりと湿った音がして、柔らかく、でも執拗に責められる。
ここで感じることなんてないと思っていたのに、体はびくびくと跳ねあがって言うことをきかない。
「……ぁあ、あっ!」
一際、強く吸い上げられて、甘ったれたような声が漏れる。
慌てて口元を手で塞ぐが、そんな僕の顔を見た彼は、にやりと口の端を吊り上げた。
「気持ちいいのか?」
「っや、あ!」
再び彼の口が僕の胸の尖りに吸い付き、舌先でこりこりと押しつぶされる。
生まれて初めての感覚に僕が戸惑っているうちに、大きな掌が、僕のベルトとズボンを引きずり下ろした。
「俺が相手でも、勃ってるし濡れてんな」
はしたなく下着に先走りの染みをつくっているところを見られて、羞恥に体が熱くなる。
だけど恥ずかしい前を隠そうとする僕に、彼はぺろりと唇を舐めた。
「エロ……」
「ぁあ、っあ!」
下着もずり下げられ、屹立を掌で擦り上げられて、堪えきれない声が漏れる。
好きな人に。
ずっと好きだった人に触られているんだ。
そのことをやっと理解した頭が、パンクしそうになる。
「っ、ぁ、あ、ああぁ……!ぁ、あ!」
そして自慰すらあんまり経験のない僕は、あっという間に精を迸らせてしまった。
肢がひくついて、吐精の余韻が体を駆け巡る。
はじめてだからか。
それとも彼の手でされたからか。
全身が痺れるような快感で満たされる。
荒い息をついて、どうにか感覚を逃がそうとしていると。
「悪いけど、これで終わらせられねぇから」
「や、ぁ」
鳴守君の手で、足が大きく割り開かれる。
まだ敏感になっている陰茎をまた掴まれて、嫌だと首を横に振る。
だけど陰茎を弄んだまま、彼のもう一方の指先はもっと深いところに潜り込んでいった。
「ぅ、あ、あ……!」
「痛いか?」
ハンドクリームみたいな、ぬめるものを纏わせた指先は、じわじわと僕の内側を暴いていく。
驚愕に目を見開いた。
知識としては知っていたけど__。
「だめ、……む、り、……できな、」
「止めねぇって言っただろ」
「ひっ、ぁ、あ!」
ゆっくりと内壁を押し広げていた指が、急に乱暴に内側を突き上げる。
それでも蕩けた体は敏感に震えて、指先を締め付けた。
「なぁ、お前を助けたのは、俺だろ……なんで尊なんかに惚れてんだよ」
指が引き抜かれて、代わりに熱いものが押し当てられる。
恐怖に息を詰めると、彼の指が僕の太ももにめりこんだ。
「絶対、あいつになんか渡さねぇ」
体の奥にまでのめり込んでくる熱。
その熱さに僕は悲鳴のような嬌声を上げた。
それからどれだけ、揺さぶられていたんだろうか。
ようやく彼の腕から解放されて、抱えられるようにしてシャワーを浴びた頃には、外は日が傾きかけていた。
学校もサボっちゃったし、そろそろ家に帰らないと。
そう分かっているのに体が怠くて、再び横たえられたベッドに沈み込む。
うとうとと意識を揺蕩わせる。
そんな僕の髪を手でくしけずると、鳴守君が低い声で、そっと僕を呼んだ。
「尊より優しくするし、大事にするから。だから……俺のものになれよ」
彼のものになる?
僕の心も体も、意識の欠片でさえとっくに彼のものだ。
あの日僕は彼に会って、すっかり魂ごと作り替えられてしまった。
彼がいなくては生きていけない。
少しでも彼を感じたくて、毎日彼の後を付け回して彼の存在の破片を拾い集めた。
もう僕は、君の足跡すら崇拝しているんだから。
そう言いたかったけど、僕の軟弱な体は生まれて初めての行為に疲れ切っていて。
切なげな彼の顔も美しいと思いながら、僕は重たい瞼を閉じた。
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