鬱金桜の君

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「八重! いつまで掃除をしているの! 雨が降りだしそうなのに、洗濯ものも干したままで!」 その日も叔母から叱責が飛んだ。廊下を雑巾がけしていた八重は、仕事が遅いと言って、持っている木の棒で八重の腕を叩いた叔母に向かって頭を下げ、申し訳ありません、と謝罪する。 「本来だったらお前のような愚図など、役立たずとして家を追い出してもおかしくない所ですよ! それを使ってやってることに、感謝はしているんでしょうね!?」 「はい、奥さま。至らない点が多く、申し訳ありません」 八重を見下ろす叔母にもう一度頭を下げて、謝罪する。廊下に額を擦りつければ、更に用事を言いつけられる。 「掃除は直ぐに終わらせなさい。洗濯ものを取りこんだら、あやめに傘を届けなさい。あの子、今日、傘を持って行かなかったから、雨に濡れると風邪をひいてしまうわ」 あやめと言うのは八重の従姉妹だ。今日は女学校の友達と新しく出来たカフェーへ行くのだと、朝、楽しそうに話していたのを、身支度を手伝っていた八重は聞いていた。 「はい、わかりました、奥さま。急いで傘を届けてきます」 「ああ、それから、帰りにお饅頭を買ってきて。午後にお茶を入れますから、そのお茶うけよ」 「はい、必ず」
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