鬱金桜の君

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暫く寒い空の下待っていると、あやめが友人二人と共に門を出てきた。半結びをした髪の毛を大きなリボンで縛り、薄桃地に椿の文様をあしらった着物に赤色の袴を着たあやめは、どうやらこの三人でこれからカフェーに行くらしく、おしゃべりが途切れない。黒々と重く空を覆っている雲をちらと見て、八重はあやめに声をかけた。 「あやめさん」 呼びかけた声に、あやめが振り向く。友達と話していた時の名残の笑顔が、八重を見て一変、見下す目つきに変わる。 「なに? 八重に用などないのだけど」 「あ、あの。奥さまが、あやめさんが傘をお持ちじゃないとおっしゃって……。雨も降りそうですし、風邪をお召しになるといけないとおっしゃって」 そう言って八重があやめの傘を差し出すと、八重はその、自分の傘を持つ八重の手を見て、まなじりを吊り上げた。 「その汚れた手で、わたくしの傘を持って来たの? わたくしの傘が汚れてしまうじゃない」 「も、申し訳ありません……」 身を縮めて俯くと、あやめの友達が口を開いた。 「あやめさん、この人は?」 「ああ、家で使っている小間使いなの」 あやめの言葉に彼女の友人二人がじろじろと八重のことを観察する。ぶしつけな視線が痛かったが、なんとか奥歯を噛んで耐えた。 「まあ。わたくしたちと同じくらいの年頃なのに、垢ぬけないのね」 「仕方ないのよ。素地も教養もない子だもの」
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