夕陽の子猫

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「なあ、陽茉莉」 「ん?どした?」 「昔、猫を拾ったの覚えてるか?」 「拾ったよねえ。えーと、確か、メトリーやんな?」 「そう、メトリー。子猫見てたら、ちょっとメトリー思い出したわ」  メトリーは、ヒゲが右側だけ妙に長くて白っぽい、少し太り気味の猫。  同時に「ヒゲがアシンメトリーやん!おっしゃれー!」と言いながらはしゃぐ幼い陽茉莉を思い出す。  そういえば、昔は黒髪でショートカットだったな。  どちらの親も、拾ってきた猫を飼うことを反対した。蒼太の家もダメだった。  そもそも、都基島では犬は飼っても猫はあまり飼わない。飼っても家の中では飼ってはいけない。放し飼いなので、自由にどこにでも行ってしまう。 「アシンメトリーのメトリーやね。どっか行っちゃったけど、元気にしてるかな?飼いたかったなあ」  栗色で長い髪を束ねた現在の陽茉莉が、昔と形ごと違う横顔でぼやいている。成長するにつれて丸っこかった鼻筋がスッと通ったイメージに変わった。
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