朝に降り立つ

夕陽の子猫

「猫ちゃんはね、可愛いけど家に入れたらいかんって言われとったよな。中に入れたら、その家の一番大切なものを持ってどっか行ってしまうって」

　それはこの島に伝わる迷信じみた昔話。隣のヒノ島では家の中で飼っても良いみたいだが、猫による被害とか聞いたことがない。最近では魚屋も無くなってしまって、魚を咥えて走る猫も見なくなった。

「やけん、猫ちゃんには気をつけんとな。外にいる猫ちゃんはええけど、間違っても入って来んようにせんと」

「うわ、らしくないこと言って、大人になってしもたなあ。昔の陽茉莉にそれ言ったら泣くで」

　陽茉莉はニッと笑って静かに言った。
「ちーこそ何言いよんな？そんなのは迷信やろ。冗談に決まっとるやん」

　昔からよく冗談を言う陽茉莉だが、こんなに背筋が凍るのは初めての経験だった。