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風が止まった。雲がそこに座り込んだように動きを止めて、磨かれた鏡のような海に夕陽が映った。
これは、凪。
笑顔で船に乗り込んだ君は、どんな気持ちでこの海を見ているのだろうか?
ちゃんと帰ってきてくれるだろうか?
夢を叶えるなら向こう側が近道だ。こちら側はわかりやすくその反対。だから君が帰ってくることを望んでしまうのは、君のためにならないのだろう。
船の後ろから、長く二対の波紋が延びる。波紋はこちらに近づくにつれて、左右に広がり遠く遠く離れていく。
明日からはこの海のように、静かな心で過ごそうと決めた。寂しくないように、何も感じないように過ごそう。
行ってらっしゃい。頑張れよ。陽茉莉。
日が沈むと、少しだけ水面に波が出てきた。
振り向いて、くっきりとした三日月を見つけるまでの間、ずっと海を眺めていた。
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